(あの時は確か『どうして死にたいの?』『死んじゃダメだよ』なんて、月並みなことを言った気がする)

どうせ記憶の中なら、過去も未来も気にせずに、好きなことを言ってやろう。

風が吹く。柔らかそうな灯山の髪を、さらっていく。
線の細い灯山は、そのまま風に吹かれて飛んでいってしまいそうだ。

「どうして死ねないの?」

一瞬、灯山が目を見張る。そして少し笑った。

「死にたい理由じゃなくて、そっちを聞かれたのは初めてだ」
「もしかして不死身か何かなの?」
「いいや、死ぬのが怖いだけ。死にたいと思っているのに、死ぬのは怖いんだ」
「それって普通のことだよ。怖くなかったら、死じゃないよ」

柵に凭れながら座り込んだ灯山の横に並ぶ。
灯山はまた無表情で、私を見上げた。

こうしてじっくり顔を見るのはもう6年ぶりくらいだけど、相変わらず私のタイプな顔をしている。
一瞬どきりとしてしまったのは、止まりかけの心臓が弱っているせいだ。

「永井って、思ったキャラと違うな。あんまり喋ったことなかったけど」

(そりゃあ私は24歳だから)

記憶の中なはずなのに妙にリアルな感性を持っている灯山に少し笑う。

「それ、灯山が言う? 自殺志願者だなんて、クラスのみんなが知ったら驚くよ」
「……言わないでおいてもらえると助かる。死にたがりのヘタレだってバレたら、モテなくなるし」
「モテるなんて、気にしてもいないくせに」

灯山は何も答えず、口元だけで笑みを浮かべた。
夕日が沈むのか、じんわりとあたりが暗くなってくる。

(そろそろ走馬灯も、終わるのかな)

この記憶が走馬灯に選ばれたのなら、きっとここに私の後悔があったのだろうけど、その内容が思い浮かばない。