「俺は、死にたいんだ」
次に目を開いた時、なぜか目の前に『彼』がいた。
高校時代のあの頃のまま茶色いブレザーに身を包んで、屋上の柵に身を預けている。
沈みかけた夕日に照らされて頰を橙に染めるその顔は、無表情だった。
「死にたいのに、死ねないんだ」
(ああ、思い出した)
これは、過去の記憶だ。
いわゆる走馬灯なのか何かわからないけれど、当時17歳だった私の記憶に残る、『彼』──灯山との出会いだった。
秋に差し掛かった少し冷えた風が、私たちの頰を撫でる。
その感覚は妙にリアルだ。
(何も死ぬ前に、こんな場面を見せなくても)
なんとも皮肉な走馬灯に辟易としながら、過去の記憶を辿る。
(ここで、当時の私はなんて言ったんだっけ)
灯山は妙な雰囲気を持った人だった。
高1の夏に転校してきて1年、整った顔立ちと大人びた振る舞いから、すぐに彼は話題の中心となった。
すぐにクラスに馴染み、友達も多くできて、何事も卒なくこなす。
とても自然に溶け込む彼は、私にはどこか不自然に見えていた。
喜びながら、からかいながら、困りながら、笑いながら、彼はときどき、そこに心が伴っていないような寂しい目をする。
そんな時、彼が放課後に屋上へ向かう姿を見つけた。
なんとなく気になってあとを追いかけたら、彼は屋上の柵に手をかけて自殺しようとしていたのだ。