気づいたら翌朝になっていた。結局一睡もできなかった。無論、学校に行く気などしない。一晩立ってもこのつらさは全く身体から抜ける気配はない。
よく考えればまだ聖夜君が死ぬとは限らない。例えば都合で転校になったとか。
だけど、あの聖夜君の雰囲気は少し死ぬ前のお兄ちゃんに似ていた。
私はお兄ちゃんが自殺した理由を知らない。だけど、すごくつらかった。人が死ぬってこんなにつらいことだってことを初めて知った。祖父の時はそんな感情湧かなかったのに。
昨日無視したLINEを確認する。予想の通り、綾ちゃんからの心配の言葉がほとんどだった。『ごめん、返信できなくて』とだけ送っておく。
もし今日私が学校に行かないことを知ったら綾ちゃんは間違いなく家に来る。
綾ちゃんに迷惑はかけられない。この性格が中学ではたたったのだけど。
そんな中、一軒だけ聖夜君からLINEが届いていた。
『今から、会えないか』と。
いい話でないことくらい分かっている。また苦しくなるかもしれない。
だけど、きっと私を見た時の聖夜君だってつらかったはずだ。
それでも聖夜君はつらい顔一つ見せず私を助けてくれた。
きっと私は聖夜君のようには一生なれない。
だけど私だってこのまま黙って見ている気にはなれない。
何か、何か1つでいいから聖夜君のために何かをしたい。
あんな顔の聖夜君、2度と見たくないから。
私は思い切って電話をかけることにした。LINEだと、返信されるまで時間がかかるし、何より聖夜君の声が聞けない。私は聖夜君の生の声を聴きたかった。聖夜君が生きていることを知りたかった。
意外にも1回で繋がった。正直無視されると思っていた。
「ひなた……」
電話越しでも深刻そうな感情は嫌というほど伝わってくる。
「ごめん、昨日はいろいろと。LINE見る気にもなれなくて。」
「すまない。俺のせいで迷惑かけて。」
「そんなこと聞いてない!」
思わず感情的になってしまう。
「なんで?なんでそうなの?私が一人で抱え込んでいた時、聖夜君は私に寄り添ってくれた。私のことを理解してくれた。なのに、なんで聖夜君はそうやって一人で抱え込もうとするの?」
「俺だって…俺だって誰かにすがりたい。誰かと一緒に生きていたい。だけど俺には、そんな権利がないんだ。ひなたのその気持ちはすごくうれしい。だけどその気持ちはほかの誰かのために取っておいてほしい。」
「聖夜君は私のこと何もわかってない!私は聖夜君のことが好きなの。世界で一番好きなの!だから、この気持ちは聖夜君のために使う。」
「俺にひなたのことがわかるわけないだろ!」
なんで?何が起きてるの?そんなこと言わないでよ。
「普段見ている俺やひなたなんてほんの一部でしかない。だから、他人に自分自身のことなんて絶対分からない。自分ですら分かっているのかどうかわからないからさ。」
そんなこと分かっている。私に聖夜君のことなんて分からないし、聖夜君だって私のことなんて分からない。
だけど、いや、だから人は互いのことを支えあって生きていくんじゃないの?互いのことがよく分からないから。
「やっぱ電話越しじゃ聖夜君のこと分からない。だから、今から会おう。場所は昔よく3人で遊んだ公園。8時までに来て。約束だから。」
「おい、学校はどうするんだよ?」
「じゃあ聖夜君は来るの?」
沈黙している。ずるいかもしれないけれど、これが一番利く。
「待ってるから。」電話を、切った。
時刻は7時半。ただ、ここから公園までは歩いて10分の距離にあるので焦る時刻ではない。
聖夜君は絶対来る。私の過去の経験上、聖夜君はこういうのを絶対無視できない。
朝は重かった身体も今は少し軽かった。ただ、聖夜君に会えるという嬉しさは微塵もない。
下に降りてきたときにはすでに両親は出勤していた。
いつもそうだ。私が起きてきたときにはこの家には一人しかいない。
誰も私のことを愛してくれる人はいないの?
聖夜君。私のこと好きだって言ったよね?あれは嘘じゃないよね?
思えば思うほどつらくなってくる。
顔を洗い、軽く化粧をしただけで私は家を出た。何か分からないけれど、家にはいたくなかった。
春の天気は変わりやすいとはよく聞くけれど、昨日の快晴はすっかり息をひそめ、今にも雨が降り出しそうだ。
今日の世界は、昨日をモノクロコピーしたみたいだ。きっと、それくらい私の心も暗いのだろう。
私だってバカじゃない。これから起こることくらい、大体予想がつく。
だから余計に怖かった。聖夜君から真実を突きつけられるのが。
私の心ってこんなに聖夜君で埋まってたんだと今更ながら思う。
公園に着いたのは約束した10分前だったのに、既に聖夜君はそこにいた。
どんなモノクロな世界でも一瞬でカラーにしてしまう聖夜君が、この世界にいた。
私の足音に気付いたのか、聖夜君と目が合う。
その聖夜君から以前の聖夜君は想像もできないけれど。
「ごめん、待たせちゃった?」
いつもなら聖夜君が話しかけてくれるのに。今日はそれもない。
「いや、今来たところだから。ありがとう。」
声にも元気がない。昨日までの、あの顔は何だったの?
よく考えればまだ聖夜君が死ぬとは限らない。例えば都合で転校になったとか。
だけど、あの聖夜君の雰囲気は少し死ぬ前のお兄ちゃんに似ていた。
私はお兄ちゃんが自殺した理由を知らない。だけど、すごくつらかった。人が死ぬってこんなにつらいことだってことを初めて知った。祖父の時はそんな感情湧かなかったのに。
昨日無視したLINEを確認する。予想の通り、綾ちゃんからの心配の言葉がほとんどだった。『ごめん、返信できなくて』とだけ送っておく。
もし今日私が学校に行かないことを知ったら綾ちゃんは間違いなく家に来る。
綾ちゃんに迷惑はかけられない。この性格が中学ではたたったのだけど。
そんな中、一軒だけ聖夜君からLINEが届いていた。
『今から、会えないか』と。
いい話でないことくらい分かっている。また苦しくなるかもしれない。
だけど、きっと私を見た時の聖夜君だってつらかったはずだ。
それでも聖夜君はつらい顔一つ見せず私を助けてくれた。
きっと私は聖夜君のようには一生なれない。
だけど私だってこのまま黙って見ている気にはなれない。
何か、何か1つでいいから聖夜君のために何かをしたい。
あんな顔の聖夜君、2度と見たくないから。
私は思い切って電話をかけることにした。LINEだと、返信されるまで時間がかかるし、何より聖夜君の声が聞けない。私は聖夜君の生の声を聴きたかった。聖夜君が生きていることを知りたかった。
意外にも1回で繋がった。正直無視されると思っていた。
「ひなた……」
電話越しでも深刻そうな感情は嫌というほど伝わってくる。
「ごめん、昨日はいろいろと。LINE見る気にもなれなくて。」
「すまない。俺のせいで迷惑かけて。」
「そんなこと聞いてない!」
思わず感情的になってしまう。
「なんで?なんでそうなの?私が一人で抱え込んでいた時、聖夜君は私に寄り添ってくれた。私のことを理解してくれた。なのに、なんで聖夜君はそうやって一人で抱え込もうとするの?」
「俺だって…俺だって誰かにすがりたい。誰かと一緒に生きていたい。だけど俺には、そんな権利がないんだ。ひなたのその気持ちはすごくうれしい。だけどその気持ちはほかの誰かのために取っておいてほしい。」
「聖夜君は私のこと何もわかってない!私は聖夜君のことが好きなの。世界で一番好きなの!だから、この気持ちは聖夜君のために使う。」
「俺にひなたのことがわかるわけないだろ!」
なんで?何が起きてるの?そんなこと言わないでよ。
「普段見ている俺やひなたなんてほんの一部でしかない。だから、他人に自分自身のことなんて絶対分からない。自分ですら分かっているのかどうかわからないからさ。」
そんなこと分かっている。私に聖夜君のことなんて分からないし、聖夜君だって私のことなんて分からない。
だけど、いや、だから人は互いのことを支えあって生きていくんじゃないの?互いのことがよく分からないから。
「やっぱ電話越しじゃ聖夜君のこと分からない。だから、今から会おう。場所は昔よく3人で遊んだ公園。8時までに来て。約束だから。」
「おい、学校はどうするんだよ?」
「じゃあ聖夜君は来るの?」
沈黙している。ずるいかもしれないけれど、これが一番利く。
「待ってるから。」電話を、切った。
時刻は7時半。ただ、ここから公園までは歩いて10分の距離にあるので焦る時刻ではない。
聖夜君は絶対来る。私の過去の経験上、聖夜君はこういうのを絶対無視できない。
朝は重かった身体も今は少し軽かった。ただ、聖夜君に会えるという嬉しさは微塵もない。
下に降りてきたときにはすでに両親は出勤していた。
いつもそうだ。私が起きてきたときにはこの家には一人しかいない。
誰も私のことを愛してくれる人はいないの?
聖夜君。私のこと好きだって言ったよね?あれは嘘じゃないよね?
思えば思うほどつらくなってくる。
顔を洗い、軽く化粧をしただけで私は家を出た。何か分からないけれど、家にはいたくなかった。
春の天気は変わりやすいとはよく聞くけれど、昨日の快晴はすっかり息をひそめ、今にも雨が降り出しそうだ。
今日の世界は、昨日をモノクロコピーしたみたいだ。きっと、それくらい私の心も暗いのだろう。
私だってバカじゃない。これから起こることくらい、大体予想がつく。
だから余計に怖かった。聖夜君から真実を突きつけられるのが。
私の心ってこんなに聖夜君で埋まってたんだと今更ながら思う。
公園に着いたのは約束した10分前だったのに、既に聖夜君はそこにいた。
どんなモノクロな世界でも一瞬でカラーにしてしまう聖夜君が、この世界にいた。
私の足音に気付いたのか、聖夜君と目が合う。
その聖夜君から以前の聖夜君は想像もできないけれど。
「ごめん、待たせちゃった?」
いつもなら聖夜君が話しかけてくれるのに。今日はそれもない。
「いや、今来たところだから。ありがとう。」
声にも元気がない。昨日までの、あの顔は何だったの?