「それはそうだけど」
 確かに去年の冬は、まだ志月と再会していなかった。
 なので『去年のものを出してきたのかもしれない』と思って、初めて見るものだと思ったようだが、口に出さなかったらしい。
 でも気付いていてくれたのだ。ぽうっと胸の奥があたたかくなったが、次の志月の言葉でそれは熱いものへ変わった。
「かわいいですね」
 う、と幸希は詰まる。その言葉を誘導したも同然だったので。
 けれど、それを望んでいたのも事実。
「あ、ありがとう……」
 素直にお礼を言うと、今度志月はにっこりと笑った。人懐っこい笑み。
「でもそんなふうに言ってくれる、幸希さんのほうがかわいらしいです」
「……また恥ずかしいこと」
 しれっとそう言うのはやめてほしい。嬉しいけれど、心臓がいくつあってもたりないではないか。
 どくどくと鼓動を速くしてしまったというのに、志月はどうでもいいことを言ってきた。
「本心です。はい、口開けてください」
 差し出されたのは、綺麗に剥けた甘栗。いつの間にか剥いていたらしい。
「誤魔化さないで」
「誤魔化してません。ちょうど剥けましたから」
「……剥くのなんて数秒のくせに」
 幸希はそのとおり指摘したのだが、口の前まで甘栗を差し出されてしまった。
「いいですから、はい、あーん」
 観念する。
 子供にするみたいにしなくても、と思ったのだが。
「おいしいですか?」
「うん」
 聞かれたので、もぐもぐと噛みながら頷く。
 甘栗は中華街では一年中売っているが、やはり栗だけあって、秋や冬が一番おいしく感じる、と思う。
「今度はラーメンでも作りに行きましょうよ」
 志月が今度は自分で食べるのだろう、新しい甘栗を剥きながら、何気なく言った。
 ラーメン?
 確かに志月はラーメンが好きだと言っていたし、実際に二度ほど一緒に食べに行ったことはあるけれど、作る、とはいったい。
「作るの?」
「はい。カップヌードルミュージアムっていうところがあってですね、そこでカップラーメン作りの体験を……」
 さらさらと答える志月。次のデートの予定が立っていく。
 夏から秋になって、そして今は秋から冬へと変わろうとしていく。再会したときは夏だったのに、志月と過ごす季節ももうみっつめだ。
 一周するときにはなにがあるのだろう。
 それまで何回も会って、いろんなときを二人で過ごして。
 もっと仲を深められていったらいいな、と思う。
「もうひとつ、食べますか?」
 聞かれたので幸希は「食べる」と言ったのだけど。
 志月は自分のくちもとに甘栗を持っていった。くちびるで軽くくわえる。
 それを見ただけで意味がわかり、幸希の胸が高鳴った。

 もう、馬鹿。

 思ったのだけど、それは口に出さずに、幸希はそっと顔を近づけた。
 幸希のくちびるに届いたのは甘栗だけでなく、その先にある志月のくちびるも、だった。