風邪がすっかり治る頃には、季節ははっきりと秋になっていた。このくらい季節が落ち着いてしまったほうが逆に過ごしやすい。
 きちんと適切な防寒をしていれば、寒さもまだそれほど厳しくない。
 志月とは約束していたように、例のお店を訪ねるデートをした。外観通りの素敵な商品を扱う店で、幸希はちりめん生地で作られた和スイーツモチーフの小物のどれを買おうか夢中になってしまった。
 結局選んだのは桜餅とかしわ餅をモチーフにしたものだった。それぞれピンクと緑の生地を使って作られていたが、控えめに柄が入っているところが、なかなかほかでは見られないと思う。
「そのチョイスは春の和菓子ですね」
 志月にはくすくすと笑われた。
「春のお菓子が好きですか」
「うん。華やかだし」
「じゃ、春になったら和菓子屋巡りでもしましょうか」
 その提案に嬉しくなってしまった。
 春になるまで一緒に居たいと思ってくれることに。


 交際は順調だったといえる。
 それにほころびが生じたのは、あるとき外で偶然志月を見かけたときのことだった。