夏も終わって、秋と呼べる季節になった。
近頃は冷える日と暑い日の差が激しい。冷える日は「10月下旬並みの気温です」なんて天気予報は言っていたし、暑い日は「真夏並みの暑さです」と言った具合。
このところの異常気象は本当に困ってしまう。二ヵ月も気温が振れているではないか。ここ数年はそれが特にひどいと感じていた。
それでも天気や天候はどうしようもない。だから羽織りものを調節するなり、オフィスにブランケットを置くなりして、それに合わせた服装をしていたのだけど。
それも追いつかなかったらしい。
ある朝、起きると喉が痛かった。
やだな、クーラーにあたったかな。
昨夜は暑かったからと、クーラーをかけて寝たのは寒すぎたのかもしれなかった。幸希は喉を押さえて思った。
それでも夏の間はたまにあったことだった。なので喉の薬を飲んで、のど飴を舐めていればそのうち治るだろう、くらいに思っていつもどおりに出勤の支度をする。
朝ごはんは飲み込みやすいスープメインにして済ませて、メイクをきちんとして。
外に出て気付いた。
今日は随分寒い。カーディガンだけでは寒かった。街行く人たちも薄手のコートを着ている人が多い、と駅に近付くにつれて幸希は思う。
喉の痛みにとらわれて、毎日見ている天気予報も見てこなかったことに今更気が付いた。そんな余裕もなかったようだ。
そこからすでになにかおかしい、と感じてはいたのだが。
オフィスについて、軽く掃除をする。
冷たいお茶はもう作らなかった。来客にもあたたかいお茶を出すようになっている。
そのまま自分の席について、普段のルーティンワークどおり入力作業をはじめたのだけど。
やはりなんだか寒かった。
事務所、もうクーラーじゃ寒いのかなぁ。
思った幸希は温度をあげさせてもらおうとクーラーのスイッチのところへ向かったが、そこでちょっと顔をしかめてしまった。クーラーのスイッチは入っていなかったのだ。
「今日はクーラー、入れてないんですか?」
店長に聞いたが、彼は、ああ、と頷いた。
「ああ。朝は入れてたんだが寒いから切ったよ。暑い?」
「いえ」
むしろ寒い、と思ったのだがそれは言えなかった。薄々思い浮かぶことがあったので。
そしてその『嫌な予感』は当たった。
午前中を終えて、昼休みに入る頃にはのど飴などなんの意味もないほど喉ははっきり痛むようになっていた。
それに寒い。ブランケットを膝にかけてもなにも変わらなかった。毛布を肩からかぶりたいくらいだ。
昼休みは作ってきたお弁当を食べるのだが、それも食べたいとは思わなくて、幸希は認めざるを得なかった。
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
ああ、寒暖差が激しいから仕方がないかもしれないけれど。
今日の午後だけは我慢して、帰ったらもう風邪薬でも飲んで寝てしまおう。
明日はまだ平日だけど出勤できるかな。
今から憂うつになってしまう。
夏が終わるなり、サラリーマンの秋の転勤ラッシュがあってオフィスが忙しかったのもたたったのだろう。
いろんなひとが出入りする以上、風邪の菌なども空気中に漂っている。免疫力がしっかり働いていればそんなものはブロックしてくれるのだけど、疲れから働きにくくなって、感染してしまったようだ。
午後の仕事はとてもつらかった。本当ならすぐにでも横になりたい。
そしてそれはオフィスの同僚たちにも気付かれたらしい。
「鳴瀬さん、顔色があまり良くないね」
営業の一人に言われてしまう。
「はい、なんだか風邪でも引いたみたいで」
「マジか。無理しないほうがいいよ」
「ありがとうございます」
気遣われるのは嬉しかった。それでコトが良くなるわけではないけれど、そのくらいには体調不良のところを無理やり働かせる会社でないことがありがたい。
なんとか一日を終えて、「明日、調子が悪かったら、朝電話してくれよ」と言ってくれた店長にまた「ありがとうございます」と言って帰路についた。
帰り道、ドラッグストアに寄って風邪薬やポカリスウェット、それにパウチのおかゆなども買い込む。いかにも風邪を引いた人の買い物だ、と思ったけれど仕方がない。
帰宅して、買ってきたおかゆを鍋で沸かしたお湯の中に入れる。おかゆは自分で作ることもできるけれど、もうそれもおっくうだったのだ。
できあがった白がゆに梅干しを入れて食べる。それを飲み込むのもやはり喉が痛かった。
なんとかすべておかゆを食べてしまって、風邪薬を飲んだ。
病院は出来れば行きたくないなぁ、と思う。病院が好きなひとはいないだろうが。
お風呂に入る気力はなかったので、明日にすることにしてメイクだけ落とす。そのままベッドに入った。
まだ9時にもなっていなかったが、幸希はすぐにうとうとしはじめた。ここしばらくの疲れと風邪の初期症状からの眠気だろう。
夢も見ずに、いつのまにか朝になっていた。
近頃は冷える日と暑い日の差が激しい。冷える日は「10月下旬並みの気温です」なんて天気予報は言っていたし、暑い日は「真夏並みの暑さです」と言った具合。
このところの異常気象は本当に困ってしまう。二ヵ月も気温が振れているではないか。ここ数年はそれが特にひどいと感じていた。
それでも天気や天候はどうしようもない。だから羽織りものを調節するなり、オフィスにブランケットを置くなりして、それに合わせた服装をしていたのだけど。
それも追いつかなかったらしい。
ある朝、起きると喉が痛かった。
やだな、クーラーにあたったかな。
昨夜は暑かったからと、クーラーをかけて寝たのは寒すぎたのかもしれなかった。幸希は喉を押さえて思った。
それでも夏の間はたまにあったことだった。なので喉の薬を飲んで、のど飴を舐めていればそのうち治るだろう、くらいに思っていつもどおりに出勤の支度をする。
朝ごはんは飲み込みやすいスープメインにして済ませて、メイクをきちんとして。
外に出て気付いた。
今日は随分寒い。カーディガンだけでは寒かった。街行く人たちも薄手のコートを着ている人が多い、と駅に近付くにつれて幸希は思う。
喉の痛みにとらわれて、毎日見ている天気予報も見てこなかったことに今更気が付いた。そんな余裕もなかったようだ。
そこからすでになにかおかしい、と感じてはいたのだが。
オフィスについて、軽く掃除をする。
冷たいお茶はもう作らなかった。来客にもあたたかいお茶を出すようになっている。
そのまま自分の席について、普段のルーティンワークどおり入力作業をはじめたのだけど。
やはりなんだか寒かった。
事務所、もうクーラーじゃ寒いのかなぁ。
思った幸希は温度をあげさせてもらおうとクーラーのスイッチのところへ向かったが、そこでちょっと顔をしかめてしまった。クーラーのスイッチは入っていなかったのだ。
「今日はクーラー、入れてないんですか?」
店長に聞いたが、彼は、ああ、と頷いた。
「ああ。朝は入れてたんだが寒いから切ったよ。暑い?」
「いえ」
むしろ寒い、と思ったのだがそれは言えなかった。薄々思い浮かぶことがあったので。
そしてその『嫌な予感』は当たった。
午前中を終えて、昼休みに入る頃にはのど飴などなんの意味もないほど喉ははっきり痛むようになっていた。
それに寒い。ブランケットを膝にかけてもなにも変わらなかった。毛布を肩からかぶりたいくらいだ。
昼休みは作ってきたお弁当を食べるのだが、それも食べたいとは思わなくて、幸希は認めざるを得なかった。
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
ああ、寒暖差が激しいから仕方がないかもしれないけれど。
今日の午後だけは我慢して、帰ったらもう風邪薬でも飲んで寝てしまおう。
明日はまだ平日だけど出勤できるかな。
今から憂うつになってしまう。
夏が終わるなり、サラリーマンの秋の転勤ラッシュがあってオフィスが忙しかったのもたたったのだろう。
いろんなひとが出入りする以上、風邪の菌なども空気中に漂っている。免疫力がしっかり働いていればそんなものはブロックしてくれるのだけど、疲れから働きにくくなって、感染してしまったようだ。
午後の仕事はとてもつらかった。本当ならすぐにでも横になりたい。
そしてそれはオフィスの同僚たちにも気付かれたらしい。
「鳴瀬さん、顔色があまり良くないね」
営業の一人に言われてしまう。
「はい、なんだか風邪でも引いたみたいで」
「マジか。無理しないほうがいいよ」
「ありがとうございます」
気遣われるのは嬉しかった。それでコトが良くなるわけではないけれど、そのくらいには体調不良のところを無理やり働かせる会社でないことがありがたい。
なんとか一日を終えて、「明日、調子が悪かったら、朝電話してくれよ」と言ってくれた店長にまた「ありがとうございます」と言って帰路についた。
帰り道、ドラッグストアに寄って風邪薬やポカリスウェット、それにパウチのおかゆなども買い込む。いかにも風邪を引いた人の買い物だ、と思ったけれど仕方がない。
帰宅して、買ってきたおかゆを鍋で沸かしたお湯の中に入れる。おかゆは自分で作ることもできるけれど、もうそれもおっくうだったのだ。
できあがった白がゆに梅干しを入れて食べる。それを飲み込むのもやはり喉が痛かった。
なんとかすべておかゆを食べてしまって、風邪薬を飲んだ。
病院は出来れば行きたくないなぁ、と思う。病院が好きなひとはいないだろうが。
お風呂に入る気力はなかったので、明日にすることにしてメイクだけ落とす。そのままベッドに入った。
まだ9時にもなっていなかったが、幸希はすぐにうとうとしはじめた。ここしばらくの疲れと風邪の初期症状からの眠気だろう。
夢も見ずに、いつのまにか朝になっていた。