山寺先輩は眼鏡のブリッジを上げて、さっきよりも声のトーンを押さえ語りだした。
「その後、鏡詣りをする生徒は減っていき……噂も廃れていった。だが最近になってその噂が再び一部の生徒の間で広がっている……少し話が違った形になって……」
「違った形……ですか?」
「鏡詣りの儀式自体は一緒……ただ、永遠の愛で結ばれるではなく互いが本当に相手を愛しているかが試される……」
「試す? どうやってですか?」
「やっぱり幽霊は出て来ないのか? もういい、次だ次!」
「……長くなったが、ここから幽霊の話だ……」
「ほ、本当かっ!?」
持明院先輩は瞳をキラキラと輝かせていた。
怖い話を聞く人の表情ではない。
もうそれはそれは嬉しそうに、誕生日プレゼントを開ける前の子供みたいな表情だ。
「よしっ! 早く話せ! 速攻話せ! なんなら蝋燭を百本立てて、これから百物語をしてもオレは構わないぞ!」
「しませんよ」
「クククっ……藤城、貴様もしかして怖いのか?」
「違います。面倒なだけです」
「あはは、輪ちゃん、部室に百本も蝋燭なんてないよ~」
百話も怖い話なんてしていたら、家に帰れなくなるのは確実。
あっ、でも、本当に百話も話したら、何時間くらいかかるんだろう?
「チッ、仕方ない、それで幽霊はどうした?」
「うん……。新しい噂ではね、もし……互いが本当に愛しあっているのなら、鏡には何も起こらない、だが……万が一、どちらかが本当に相手を愛していない時は……血塗れの少女の霊が現れて裏切った方を鏡の中に連れてゆく……」
「よしっ! 行こう! その、鏡なんたら~をしに!」
「鏡詣りですよ先輩……それにカップルじゃないと意味ないです」
「クッ! そんなもの鏡に手でも突っ込んで、血塗れ少女を引きづり出せばいいだろう!」
「そんなむちゃくちゃな……えっと、でもどうして今になってその噂が広まってきてるんでしょうか?」
「今人気のあるネットの動画放送……それで一気に広まってるみたいなんだ」
「あ~、知ってる知ってる、ウチの放送部がやってるネットの生放送番組でしょ? アレ、今人気あるもんね~」
「ネットの動画放送ですか?」
「あれ~、桃ちゃん知らない? 人気ネット動画サイトの生放送だよ」
生憎、私はそういったものに疎い。
どうやらそれは持明院先輩も同じの様で……。
「なんだそれは!? 心霊特集とか超次元特番とか、オカルトミステリー雑誌ヌーの編集長でも出ているのか!?」
「うんとね~、いろんなゲームのプレイ実況とかあとは、リスナーにリクエストをもらって無茶なことにチャレンジしてみたり~、いろいろなんだけどね」
「つまらんな、幽霊もゴーストも心霊も出ないものなど」
持明院先輩、それは全部同じものです。
「でも、本当に人気なんだよ~? そのせいでウチの学校の受験者も増えたし、なにより放送部の新入部員が激増したんだから~」
「みんな影響されやすいんですね」
私は思わず苦笑した。
「ナニ……っ?」
富岡先輩の言葉に、持明院先輩は若干ムッとして眉間に皺を寄せた。
見た目だけは火の打ち所のない持明院先輩がふてくされると、普通の人よりも威圧感が増して見える気がする。



