あの後聞いた話では、私たちの上に落ちて来た鉄骨は、工事途中で放置されていたもので、繋いでいたワイヤーがカナリ痛んでいて、いつ落ちて来てもおかしくない状況だったんだそうだ。
あそこを通学路にしていた先輩は、いつもその危険にさらされていたという事だろう。
スズさんは、それを伝えようとしてくれていたのかもしれない。
そして……。
あれから──
持明院先輩は夢を見たそうだ。
その夢はスズさんが、
「貴方はもう、私がいなくても大丈夫。もう行かなきゃ……兄さんをずっと待たせてしまっていたから」
と言って、笑顔で手を振る夢だったそうだ。
隣には、先輩にそっくりなお兄さんもいたという。
あっ、それともう一つ……
「あのパン美味しいね。ちゃんと弁償していくから」
とも言っていたそうだ。
「あぁ~っ!! また買い逃したぞ!! グラタン焼きそばパン!!」
数日後──
持明院先輩は一連の事などまるでなかった様に部室でふんぞり返りお怒りモードだった。
「あれは競争率が高いからね~」
富岡先輩がスポドリをがぶ飲みしながら、やれやれといったポーズで私に笑い掛ける。
いつもの心霊研だった。
「……んっ? 持明院先輩、それは?」
私はいつの間にか、持明院先輩のかばんからはみ出ている物を指差した。
「グラタン……焼きそばパン?」
「いっ、いつの間に!! ま、まさか、もしや、オレはとうとう念じただけで欲しい物を瞬間移動させられる事が出来る能力を手に入れる事に成功したのかっ!!」
それは、持明院先輩にだけは、与えて欲しく無い能力に思えますが……。
その瞬間、ふっと空気が揺らめくのを私は感じた。
けれどそれは、すぐに消えてしまいそしてもう感じる事が出来なくなった。
多分もう二度と、その人の揺らぎは感じられないのだろうと私は思い安堵する。
「そうだ、藤城」
「はい? なんですか?」
「オマエがこれからはオレの側にいるんだぞ?」
「はい?」
「彼女がいなくなった今、オレを守るのはオマエの役目、そう悟って彼女は消えたのだからな」
「はっ? はぁっ?」
守るって、普通そういうのは男性がしてくれるものなんじゃ!?
いやいや、それ以前にどうして私が??
「オマエ、言われたろうあの時」
「あの時?」
「オレの事をよろしくと……」
「えっ!? アレ、先輩にも聞こえてたんですか?」
「ああっ、あの一言だけな」
ま、まさか、霊の声など一切、聞こえない先輩があの声だけ聞こえていたなんて……何かの策略としか思えない。
「でも……」
先輩はふと、見せた事のない寂しい表情をしていた。
「最後に声が聞こえて良かったよ」
グラタン焼きそばパンを頬張る持明院先輩は、いつもよりなんだかせつなそうな顔をしていた。
[幽霊トンネルの噂]
深夜、廃線になった鉄道の古いトンネルに奥まで入り戻って来ると、足元に真っ白な少女がしがみついて来るという……[済]