「いっ……今のは……?」
薄暗い場所。
人の気配は感じない。
「先輩?」
見回すがどうやら、今ココには私一人しかいないようだ。
確か──
アノ幽霊の少女が何かを…………
「ココって……もしかして、あのトンネル……?」
突然の事に動揺したが、どこかで見覚えのある場所だという事にすぐ気づく
一体、ナニがどうなっているんだろう?
「スズ、もう帰ろう」
すると、どこかで聞き覚えのある声がした。
声の主の方を見ると、そこには見慣れない制服姿の先輩がいた。
「先輩!?」
私は手を伸ばしたが、不思議な事に先輩は私の体をすり抜けていってしまう。
「コレは……」
すり抜けられた自分の手を、私は凝視した。
私は今、幻の様なものを見ているのだろう、そしてそれは恐らく古い誰かの記憶だ。
体の中をすり抜けられた瞬間、何故だかそれが理解出来た。
[誰か]とは言ったが、答えはわかっているアノ幽霊の少女。
そう、コレはきっと……
持明院 スズさんの過去の記憶。
そして──
真実。
「ねぇ兄さん、今日はトンネルを奥まで探検しましょうよ」
「えっ? 危ないよスズ、みんなが心配しているだろう、もう帰ろう」
「少しだけ、いいでしょ? 私、今日はとっても体の調子が良いのよ、お医者様にも最近褒められてるんだから」
そう言うと線路伝いにスズさんは、器用に車椅子を動かしてトンネルの奥へと進んで行ってしまった。
「あっ、おいっ! あとで叱られるのは、僕なんだぞ?」
先輩に瓜二つのスズさんのお兄さんは、その後ろを着いていく。
「スズ、ほらもうあまり道もよくない何かあったら大変だ、戻ろう!」
トンネルの奥は大きめの石や岩が転がり、車椅子では通る事が困難になっていた。
「大丈夫よ兄さん、あっ! ねぇ見て、もう向こうの光が見える。あっちまで行ってみましょうよ!」
スズさんは車椅子から立ち上がり、壁伝いに光に向かい歩き出した。
「おいっ!? ダメだ、スズ戻るんだ!!」
その時だ──
ズズズズズズズズっ…………!!
嫌な地響きが二人の耳に届いた。
「一体、なんだ? なんの音だ……」
「……っ!? 兄さん!!」
ドドドドドドっ…………!!
轟音と土煙り、凄まじい地面の振動。
目の前が真っ暗になってしまい、何がなんだかわからない。
気が付けば大量の土砂の前に、一人座り込む先輩の姿があるだけだ。
いや、先輩ではない。
アレはスズさんのお兄さん、持明院 聡一郎さん
聡一郎さんは、辺りをキョロキョロと見回している、しかし大切な妹の姿はない。
カラカラと車輪の回る、妹の車いすだけが倒れているだけだ。
聡一郎さんの視線が、目の前の土の壁に向く。
「す……ず……スズっ!? スズっ!! イヤだ!! ウソだ!! スズ、今助けてやるから……」
一瞬、アノ時砂埃の中に見えた二人の姿。
スズさんが後ろから聡一郎さんの体を突き飛ばし、聡一郎さんを助けた。
「スっ、スズ!? ……スズ!! 返事をしろっ!!」
聡一郎さんの声だけが虚しく響いている。
必死で目の前の土砂を手で掘り返し、爪が割れ血が滲んで、皮膚がボロボロになるまで掘り返す。
しかし、スズさんを見つける事は出来なかった。
ふと、絶望する聡一郎さんの後ろにぼんやりと霞む少女の霊の姿が見えた。
その瞳は悲しみの色に満ちている。
やはり、アレは不運な事故だったのだ。
そして、スズさんは身を呈してでもお兄さんを守りたかったのだ。
だとしたら……、やはり──