「おいっ、待たせたな行くぞ」
私は佐野さんにお礼を言って、自転車をひく持明院先輩の隣を歩いていた。
「こっちが駅への近道だ。いつも学校に行く時はこの道を使っている」
先輩が言うその近道は、車が一台通れるくらいの狭い路地だった。
私は、先輩にさっき聞いた白い少女について聞いてみようかどうしようか迷っていた。
先輩は、もうその少女の事を覚えていないのだろうか?
もし、先輩の側にいた少女と今、先輩にくっついている少女が同じ存在なのだとしたら……
いや、でも先輩にはもう幽霊は見えない。
確かめようがないのは明らかだ。
「どうかしたか藤城?」
気がつけば、先輩はとても心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「……あっ、あの……先輩、先輩についているその子……もしかしたら……」
と、私が言い掛けたその時だった──
『アブナイ────!!』
幼い少女の声が聞こえたのと同時に、どこからか『バツン──っ!!』という聞き慣れない音が上から響いてきた。思わず音のする方を向いたが、私はただそれを見つめている事しか出来なかった。
空から降り注ぐ、黒い大きな鉄の塊を……。
「桃香!!」
音のした直後、直立不動の私は先輩に名前を呼ばれたかと思うと、ぎゅっと強く後ろから抱きしめられた。
その場から横に倒れ込み映画のシーンさながらにアスファルトを二人転がった。
先輩の腕が私の頭を庇い、体全体で守ってくれている。
私はただ目の前の死への恐怖に、目を固く閉じる事しか出来ない。
ガンッ!
ガガガガガっ!!
重たい鉄のぶつかり合う音と、地面に叩きつけられている衝撃が伝わってくる。
時間にすれば何秒かもしれない、けれどその何秒はとても長く感じた。
「先輩……」
おそるおそる目を開けると、私の目の前には先輩のどアップがあった。
「わぁぁっ!!」
慌てて先輩との距離をとる。
「藤城、大丈夫か?」
「はっ! はいっ! な、なんとか……先輩は?」
ゆっくりと体を起こす、どうやら二人とも助かったみたいだ。
大きなケガは見あたらない。
「ああ、少し擦りむいたが大丈夫だ」
「先輩の優れた反射神経のおかげです! ありがとうございます」
「いや、オレは後ろから声が聞こえて、それで、その後背中を押されたから咄嗟に……」
「声……」
私は、先輩の後ろにいる少女を見つめた。
彼女はジっと私たちを見つめている、その表情からは彼女がナニを思っているのか読み取れそうもない。
すると、突然──
彼女の周囲に目の眩む様な光が溢れだし、私たちは光の中へと吸い込まれた。