二人で向かったのは屋敷の裏手にある大きな蔵だ。
重たそうな錠前が厳重にかけられている。
よく、お宝発見! みたいなテレビ番組に出てきそうな感じの蔵を前にして、私はもしかしたら財宝がこの中に!? などといらん期待をしてしまった。
持明院先輩は錠前を外し、重そうな蔵の扉を開いた。
「うわぁっ……」
薄暗い蔵の中には、ホコリまみれの木箱やわりと新しいダンボール箱が所狭しと置かれている。
「確か~……この辺に……」
先輩は迷う事なく真っ直ぐ、右手奥に積み上げられている木製の箱の方へと歩いていった。
そうして、その中の墨で文字の書かれた箱を一つ下ろして、蓋を開ける。
達筆過ぎてナニが書かれているのかはわからないが、恐らく持明院という名前と年号のようだ。
「多分、この箱だ」
「もしかして先輩、以前にもこの蔵に入った事があるんですか?」
迷う事なく箱を見つけて開けた先輩に、私は質問した。
「ああ、何度かな……遊び心でこの中を一度探索した事があって、それからたまに……何か霊的なものがあるんじゃないかと探っている」
「……やっぱり、また霊なんですね」
呆れる私を他所に、先輩は箱を躊躇する事もなく開いて中身を取り出していく。
「この前入った時……たまたまこの箱が落ちていて中を見たんだが」
箱の中にあったのは、古いモノクロやセピアの写真。
それと、ボロボロの布で出来た人形が入っていた。
確かコレ、文化人形とかいったっけ、ウチのおじいちゃんが昔教えてくれたので覚えている。
「これは……遺品だ」
「遺品? どなたの?」
「曾祖父の遺品だ、昔、ここで遊んでいる時、祖父に教えてもらった」
「持明院先輩のひいおじいさんって事ですか?」
「ああそうだ。曾祖父は死ぬまでずっと、自分が妹を見殺しにしたと後悔していたそうだ」
ふと、幽霊の少女に目をやると彼女はとても悲しそうな表情で遺品を見つめていた。
「コレを見てみろ」
先輩が一枚の写真を私に見せた。
そこには、さっき図書館でみた写真に写っていた少女と、そして先輩にそっくりな学生服の青年が写っていた。
「この人たちはさっきの……」
「ああ、曾祖父とその妹だ」
写真の中には仲良さげに微笑む二人が写っていた。
「オレは祖父から、曾祖父は妹と一緒に事故に遭い、妹を見殺しにして自分だけが生き残ってしまったと、それをとても悔いていたという話しか聞いていなかった……まさか、あのトンネルの事故でとはな……」
「でも、見殺しなんて……だって、事故だったんですよね?」
「ああ、そうだ不運な事故だ。だが、見ての通り彼女は生まれつき体が弱くて歩く事もままならなかったそうだ。恐らく、曾祖父は事故の時、自分が逃げるのが精一杯で彼女を助ける事が出来なかったのだろう。それを死ぬまで後悔していたという事だ」
「そんな……」
「曾祖父はずっとそれを後悔し、一時期病んでしまって、心配した親族や使用人たちは彼女の写真や思い出の品の全てをこの蔵に入れて、曾祖父の目につかないようにしていたらしい……だから、オレもアノ新聞記事を見るまで忘れていたよ。この写真の事も……曾祖父の妹の話も……」
私は先輩のすぐ隣にいる少女をじっと見つめた。
彼女は本当は、何を言いたいのだろう?
本当に先輩を連れていこうとしているのだろうか?
私たちが蔵を出ると、もう既に陽は傾きはじめていた。