運動部の部室棟には、確かに使われていない階段があった。
裏庭に出ないとその階段は存在すらわからない。
部室棟を使用している人達ですら入り口が見当たらず、【おばけ階段】なんて愛称まで付いていて、運動部ではない生徒もその存在だけは知っている。
昔は非常階段として使っていた物だったらしいが、かなり老朽化して危険な為、現在は使用禁止になっており、入口も一部の先生しか知らないという事を聞いた事があった。
「その階段の鏡に、怖い噂があってね……」
「噂?」
「学園中の怪談を収集しているこのオレが、まだ知らない噂があるなんて不覚だっ!」
持明院先輩は、悔しそうに爪を噛んだ。
「昔あった噂話が、最近急に話題になっているって事らしいから……」
「再び?」
「そう……。昔って言っても7、8年前に有名だった噂だって……」
「で? どういう話だ?」
「その階段の鏡の前は、ちょっとした広い踊り場になっているんだけど……、深夜二時にその鏡の前で恋人同士が愛を誓い合う儀式をすると……永遠に結ばれると言われている……」
「フンっ、くだらん。ただのまじないの類じゃないか」
「でも、なんでそれが怖い話なんですか?」
「ああ……、儀式自体が怪談ではないから……昔、その儀式をした男子生徒が二股をかけていて二人の女子生徒と儀式をした事があった……」
「二人と誓ったって事~? それはだめでしょ~」
手にしたスポーツドリンクをグビグビと飲み干して富岡先輩は背伸びをした。
「うん……そう……それを知った片方の女子生徒が男子生徒とケンカになって、もみ合ううちに階段で足を滑らせ女子生徒は死んだ……」
「ゆ、幽霊か!? 幽霊がそれで出たのか!?」
「持明院先輩、少し静かにして下さい!」
「彼女の後を追うようにその3日後、鏡詣りをした男子生徒が交通事故で死んだ……そして、儀式をしたもう一人の女子生徒も立て続けに、通学電車のホームから落ちて死んだんだって……」
「えっ……?」
「霊の仕業だなっ!!」
「たまたま偶然じゃないの~?」
「ああ……そうかもしれない……。でも、周囲からはこんな噂が流れたそうだ……儀式で永遠を誓い合ったから三人は死ぬときも一緒になったのではないだろうか……って」
「おいっ! 待て、幽霊はどうした!? 霊の仕業なんだろ!? 怖い話なのに幽霊が出てきてないぞ!」
幽霊の出て来ない怖い話なんて腐るほどあるというのに……。
どうやら持明院先輩の中では怖い話(怪談話)イコール幽霊が出てくるのが常識らしい。
「まだ……続きがある……」



