部屋の中はキチンと整頓されており、ベッドと本棚と机、それにテーブルが中央にあるが、どこにも心霊の文字は見あたらない。

 机の上には心霊写真集ではなく参考書が数冊。

 ベッドの側にあるのは、呪われた人体模型ではなく観葉植物。

 本棚にはミステリー小説と歴史系の本が並び、オバケのオの字も見当たらない。そこはまるで普通の高校生の部屋だ。

「オバケはどうしたんですか!? オカルトっは!?」

「部室にあるのが全てだ。この部屋にはない」

「はっ? なんでですか!? どうして!?」

「…………べ、別に特に意味はないが、部室に貸し出ししてやった方が皆、喜ぶだろう!?」

 いや、先輩以外誰も喜びませんよ。

「怖いのがあると、ぼっちゃんは夜寝れなくなるんですよ~」

「えっ?」

「なっ!?」

 開いたままの扉から、佐野さんが紅茶とケーキを持って現れた。

 珍しく持明院先輩が顔を真っ赤にしている。

「えっ!? でも先輩、心霊的なものが好きなんじゃないんですか?」

「…………寝る前に思い出すのは誰でも怖いだろ」

 先輩はそっぽを向いてそう言った。

 ああ、なんとなくわかった。

 たまにいる、そういう人。

 怖い物とかホラーとか大好きなのに、夜中トイレに行けなくなる……特に子供の頃多かった気が……小学生とかに……。

 つまり、先輩は小学生って事か……。

 私は妙に納得した。

「あっ、そうそう、ほらコレ蔵の鍵ですよ」

 佐野さんはそう言うとテーブルの上に小さな銀色の鍵を置いた。

「よし藤城! 早速、蔵の探索だ!」

 それを見た持明院先輩は、いつもの先輩にすっかり戻った。

 仕切り直しだと言わんばかりにヤル気になって立ち上がる。

「えっ……あのでも……」

 だがそんな先輩と反して私は今、目の前のモノに夢中だった。