「いやしかし、言霊というものは本当にあるのだな、幽霊の話しをした事によって本当に幽霊が出て来るとは」

 先輩は満面の笑みでそう言っているが、それが事実だとしたら先輩には一生沈黙していてもらいたい。

「ん?」

「どうかしました?」

 ふと先輩は私の持っていた本の、たまたま開いていたページを食い入る様に見つめた。

「この写真、どこかで……」

 先輩が目に止めたのは、この町に鉄道が開通した時の記念写真の様だ。

「持明院、って書いてありますね」

 写真の下の方に、持明院の名前がはっきりと書かれている。

「昔、これと同じ写真を家で見た事がある」

 先輩は何かに気付いて、写真の右端に写る青年を指差した。

「ココに、オレがいる……」

「えっ? これって持明院先輩?」

 そこには確かに、持明院先輩に瓜二つの学ラン姿の青年が写っていた。

 写真の下には【持明院 聡一郎(ソウイチロウ)】と手書きで記されている。

「大正12年って書いてありますね……あっ!!」

 そして、その持明院先輩に瓜二つの青年の隣に。

 少女がいた──

 華奢な体、三つ編み、白いシャツとスカート。

間違いない!

 今、先輩の足下に体育座りでいるこの幽霊の少女だ。

 体つきはとても細く頼りなげに微笑む彼女は、籐で編まれた古い車椅子に乗っていた。

どこか体が悪いのかもしれない。

 下にはやはり手書きの文字で【持明院 スズ】と名前が書かれている。

「トンネル崩落事故に関する新聞記事を見つけたぞ」

 先輩はそう言うと、テーブルに拡げられてたいくつかの新聞の中から、カナリ古い新聞を広げて見せた。

 確かにあのトンネルの写真が載っている。

「この辺りの地方新聞みたいですね。大正12年……、写真と同じ年です」

 その新聞には『隧道(ずいどう)崩落事故発生』という見出しと、あのトンネルの写真が掲載されていた。

「ずいどう?」

「隧道というのは、昔のトンネルの言い方だ」

「前日の豪雨で崩れた土砂により、隧道崩落・持明院家の女児巻き込まれ死亡。なお、側にいた兄は軽傷……兄って……、もしかしてこの写真の人じゃ…………」

 だとしたら……。

 私は頭の中で、仮説を立てた。

 もし、この少女が事故の時、一人生き残った兄を未だに恨んだりしていたら……。

 生き残った兄にそっくりな持明院先輩を見てお兄さんだと勘違いして、そして復讐しようとしているんだとしたら……。

 もしくは、あのトンネルで一人ぼっちで亡くなり、寂しくて寂しくて道連れに、兄に似た持明院先輩を選んだとしていたら……。

 どのみち、あまり良いとは思えない仮説しか出て来ない。

「先輩……」

 私は持明院先輩と、未だその足下にいる少女の霊を見つめた。

「藤城、ついて来い」

「へっ? なんですか? どこに行くんですか?」

 少しの間考え込む素振りを見せていた先輩は、突然思い立ったように立ち上がり私の腕を掴んだ。

「先輩!? 持明院先輩?」

 持明院先輩は強引に腕を捕んだまま、図書館を出てどこかへ向かい歩き始める。

 私は先輩に初めて会って、心霊研究部の部室に無理矢理連れて行かれた事を思い出した。

「ど、どこに行くんですか?」

「ウチだ」

「へっ? ウチ?」

「そうだ、オレの家だ。さっきの写真がこの事と関係があるのなら、ウチになら何かもっとヒントがあるだろう」

「た、確かにそうですけど……」

 急遽、先輩の家に行く事になり私は狼狽した。

 だって、先輩のおウチって……。


 こんな普段着で行って大丈夫なんだろうか?