時刻は夕方6時過ぎ。

 私達は、廃トンネルの中へと潜入した。

 トンネルの中は、本当に真っ暗だ。

 持って来た懐中電灯の光がなければ、深い闇だけの世界だろう。

 時折どこかで水音がするが、それはおそらく天井から滴る結露の様だ。

「持明院先輩、来るの夜中じゃなくて、良かったんですか?」

「ん? オマエ夜中に来たかったのか?」

 絶対イヤです。

 以前、心霊スポットには夜中に行くもんだと騒いでいた気がしたので、念の為に私は尋ねただけなのだが。

「いえ、なんとなく聞いただけです……」

 前を歩いていた持明院先輩は、くるりと振り返り、懐中電灯を顔の下から照らした。

 ホラー顔になった状態の先輩は、ニヤリと笑う。

「今が逢魔ヶ時だから、来たんだよ」

「おうまが……? なんですかそれ?」

 私が首を傾げていると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。

「逢魔ヶ時っていうのはね~……」

 振り向くとそこには、顔をライトで下から照らし、お揃いのホラー顔をした富岡先輩の笑顔があった。

「ちょっと、もうっ! 二人とも止めて下さい!!」

 私の頭を山寺先輩がポンポンと撫でてくれた。

「ふ~ん、もうこの程度じゃ驚いたりしないかつまらん、耐性が付いたということか?」

「アハハハ~。桃ちゃんもたくましくなったね~、お兄さんはウレシイよ~」

「いっ、いいですから! そんな事より、おうまがときってなんなんですか?」

「逢魔ヶ時……古来から妖怪や幽霊に遭遇しやすいと言われている時間帯……その時刻になると、魑魅魍魎の類が跋扈すると言われている……」

 ぼんやりと、懐中電灯に照らされた山寺先輩が説明した。

「その通り! つまり、この時間なら幽霊に出会える確率も高いって事だ!!」

 持明院先輩はウキウキでトンネルの奥へと進んでいく。

「…………で、幽霊はどこにいるんだ?」

 そして、今日も平常運転で何事も起こる事なく、私達はトンネルの行き止まりに来たのだった。

 持明院先輩は何も起こらないと、またふて腐れ始める。

「藤城! この辺りに幽霊はいないのか?」

「えっ? あーっ……今日は、たまたまいないんじゃないですかね?」

 私は辺りをよく見回したが、特に何も見えず感じず、苦笑いでごまかす。

『カシャッ』

 山寺先輩がトンネルの天井や壁に、シャッターを切った。

「特に、変わったものは写らない……」

「まぁ~、そんなすぐには出会えないものだよね~」

「そうですよ。大体そんなすぐ幽霊が見えたら有り難みも無くなりますよ?」

 もっとも、幽霊に有り難みがあるかどうかは別問題だが。

「くそ~……、幽霊め! この持明院輪に恐れをなしたか!?」

 まぁ、確かに私も幽霊だったら持明院先輩にだけは、あんまりかかわりあいたくないとは思います。

「じゃ~、戻りますか~」

 そうして、何事も無く私達はトンネルを出たのだが。


 それは、一瞬の事だった。


 突然、私は凄まじい寒気と吐き気に見舞われ、頭の中を引っ掻く様な頭痛に襲われた。


 寒い──


 そうこの寒気、異様な圧迫感。

 私は知っている。これはこの世ならざるものの気配。

「桃ちゃん?」

「藤城さん……?」

 私の異変に気付いた、富岡先輩と山寺先輩が声を掛けてくる。

「どうかしたか?」

 後ろから来た持明院先輩の声に、私は振り返った。

 私は、忘れていたのだ。

 さっき、持明院先輩は話していた。

 怪談話しの中で、トンネルでは出合っていなかった事を……。

 そう、霊を見たのはトンネルを出た後。


 持明院先輩の足元に真っ白な少女がいた──