あれから一週間。
ねねちゃんはもう、元気に学校に登校して来ている。
昨日、海外出張だったお父さんも帰って来てくれたのだと嬉しそうに言っていた。
そして、私達はいつもの様に部室であの事件について話していた。
「あの女性……遠くの街の病院に入れられたそうだよ……」
山寺先輩は、アノ時撮った女の写真を見つめながら言った。
写真にはハッキリと女の姿が写っている。
つまり、アノ時彼女はやはり人間ではなかったのだ。
「そうですか」
「オレの必殺の竜殺しをくらっても平気だったとは、やるな!」
富岡先輩が竹刀を擦りながら、不敵(?)な笑みを浮かべている。キャラがすっかり変わってますが……。
「だが、さすがに正当防衛でもやりすぎだと警察で怒られたんだぞ! しかもだ、どうしてオレだけが怒られて、オマエたちは特にお咎め無しなんだ!? 腑に落ちん!!」
それはまことに残念な事だが、持明院先輩がこの部の部長、つまり最高責任者なのだからだ。
「でさ~、結局何者だったの? アノ女って~」
「ああ、一応警察から聞いたんだが……」
持明院先輩の話によると、女は、ねねちゃんが通っている塾の講師、岡部守先生の元・恋人で、別れ話のもつれからひつこくつきまとい行為を繰り返し、今はストーカーとなってしまっていたそうで、一年前に接近禁止令もでていたそうだ。
「つまり、あの女性はねねちゃんに嫉妬して今回の事件を起こしたという事ですか?」
「そうだろうな、アノ女随分とその岡部というヤツに執着していたらしいぞ、別れ話の最中にすぐ泣く女はイヤだと言われて、自分の顔を切りつけたとかいう話もあったくらいだからな」
「じ、自分の顔を? なんでまた?」
富岡先輩が、思わずゴクリと音を立てスポドリを飲み干した。
「ああ……だから彼女、顔がひきつれていたんだ……」
山寺先輩は納得していた。
「アノ女の人、頬がひきつれて終始笑っている様な表情をしてました」
私は未だ納得のいっていない先輩二人に説明した。
「それならずっと……笑顔でいられるものね……」
淡々と話す山寺先輩とは真逆に、持明院先輩と富岡先輩は若干顔を青ざめさせていた。
「と、ともかく! 霊が関係してないなら、オレにはもうどうでもいい事だ! あっ! 新しく仕入れた心霊DVDがるんだ、早速鑑賞するぞっ!!」
持明院先輩がいそいそと鑑賞準備を始めた。
こういう時だけは、不思議な程に俊敏だ。
「でも、アノ時あの女の人は人間ではやはりなかったんですよね」
「ん~、そうだね~、人の感情は時に人間では無い様な恐ろしい何かに変異させる事もあるって事だからね~」
「富岡先輩、そういえばアノ時のケガはもういいんですか?」
「うんっ! かすり傷だったからね、へーき」
富岡先輩はあの時の、折れかけてボロボロの竹刀と腕に巻いた包帯を見つめていた。
「誰かを特別に思う気持ちが、悪い方に向いてしまったという事でしょうか……」
「特別ね~……あっ、そういえばさ~……」
富岡先輩は私の耳元に囁いた。
「オレも桃ちゃんの事、特別に思ってるから」
「へっ……っ?」
「ねっ?」
眩しいほどの笑顔を向けられたが、あまりの事に私は硬直したまま動けなかった。
特別って?
そ、それって……
「おいっ! 早くしろ! DVDの用意が出来たぞっ!」
持明院先輩がワクワクを押さえ切れないという表情で急かして来る。
少なくとも、今から心霊DVDを鑑賞する人のノリではない。
「ねぇ、またみんなでお泊まり会しようよ~」
「ふむ、それは良いアイディアだな、次は寺か廃屋だなっ!」
「普通に寝られるとこがいい……」
「楽しみだね、桃ちゃん」
富岡先輩が、私にそう言い微笑みかけた。
[黒い女の噂]
下校時校門に黒く長い髪で黒い服を着た女に声を掛けられる。
しかし、女を決して見てはいけない。
もし、女と目が合うと…………。
[検証 済]