寒い──
この感覚は、私の知ってる感覚だ。
ふいに、私の中の何かが、ザワザワと騒ぎ出す。
今、ココには確かに、この世ならざるモノがいる…………!
でも、この女は、確かに人間だ。持明院先輩にも、ちゃんとその姿は確認出来ている。
突然、霊的なモノが現れた?
それなら、どうして?
なぜ、今まで気付かなかったんだろう?
私は意識を研ぎ澄ませ、女の姿を凝視した。
そして…………。
女は、確かに人間だ。
けれど、彼女からはモヤモヤとドス黒い煙が沸き上がっている。
それはきっと、憎悪や嫉妬、愛憎、様々な負の感情の集合体。
怨念というものだ。
強い怨念が、人であるはずの女を人ならざるものへと変異させようとしている。
初めて見たそれは、今まで見てきたモノの中で一番恐ろしい存在だった。
女がフラフラと足下の床に突き刺さっていた包丁を抜き、また私達の方へジリジリと近づいて来る。
その時だった────!
「ワンっ! ワンっ!!」
唸り声をあげて女にマロンが飛びかかった。
「マロンっ!?」
「あっ……あぁぁっ……」
不意打ちの強襲に、女がグラりと体制を崩す。
いつも絶対に人を襲ったりしない様なマロンだが、野性の勘なのかそれともこの前のお返しとでも言わんばかりに、女にのしかかった。
一瞬、女の纏っていた空気が今までと変わった。
それは、怪物ではない人間のそれだ。
すると、それを察したのか私の真横で富岡先輩が妙な例のポーズをとりはじめる。
(えっ…………まさか本気ですか?)
私は、一人焦る。
しかし、焦る私と裏腹に、富岡先輩は大声で叫んだ。
「ドラゴンスレイヤぁ──────っ!!」
富岡先輩の竹刀は素早い動きで、その剣先を女の喉元へと捩り込んだ。
「ぐへぇっ……!!」
女はガクンと膝を着き、勢い良く横に倒れ泡を吹いて倒れた。
丁度その時、私達の後ろでは、パトカーのサイレンが鳴り響いていた。