「じゃあ、1階は輪ちゃんよろしく~」
「フンっ、来たら速攻で黒い女を捕らえてやる!」
1階玄関前には、胡座を組みナゼか殺虫スプレーを手にした持明院先輩。
足元にはお供の様に、すっかり先輩に懐いてしまっているマロンが体を寄せて丸まっている。
「……俺はココにいるから……もしなんかあったら呼んで……」
1階と2階を結ぶ階段の上に、さっきからあくびばかりしている体育座りの山寺先輩。
そしてねねちゃんの部屋には富岡先輩。
ねねちゃんにはベッドでいつも通り寝てもらい、私はその下に敷いた布団に横になる。
「安心してよ二人とも、ゆっくり休んでね~」
「はい……富岡先輩、ありがとうございます」
「あっ、ありがとうございます。おやすみなさい」
「オッヤスミ~」
「それじゃあ、おやすみなさい……」
部屋の電気を消し、机に置いてあるスタンドのぼうっとした明かりだけが部屋を照らしていた。
富岡先輩はねねちゃんの勉強机に座って、カーテンの隙間から外を警戒している。
部屋の中には、規則的な時計の音だけが響いていた。
気づけば横では、最近あまり眠れなかったと言っていたねねちゃんが静かな寝息を立てている。
どうやら今日は、安心して眠る事が出来たみたいだ。
これだけでも私は、ここに先輩達と来たかいがあったと思った。
ふと、勉強机の富岡先輩に視線を移す。
そこにはとても珍しい光景があった。
富岡先輩が読書をしている。
薄いぼんやりとした灯りの中で、いつもはどこかおどけている事の多い富岡先輩の顔がすごく真剣で、きっと何か試合に集中する時はこんな感じなのかもと、私はぼんやり見つめていた。
「あれ? 桃ちゃん?」
私の視線に気づいて富岡先輩は読んでた本から顔を上げ、またいつもの笑顔でこちらを向いた。
「えっ……あっ、す、すみません、なんだか眠れなくて……」
私は思わず起きあがった。
「まあ、そうだよね~、お友達は相当疲れてたみたいだから眠れたみたいだけど」
「あっ、はい、今日は先輩たちがいるから安心して眠れたんだと思います」
「そっかそっか、あっ! じゃあ、桃ちゃんはオレたちがいると寝れないって事!?」
「えっ!! ち、ちがっ、違います!!」
「し──っ!」
「うっ……うぅん……」
私の隣でねねちゃんが寝返りを打つ。
驚いて思わず大きな声を出してしまった。
「す、すみません……」
「ごめんごめん、今のはオレのが悪かったね」
二人とも声のトーンを落として話した。
「でもね、案外それは正解かもよ?」
「へっ? 何がですか?」
「なんせここに狼がいるから、桃ちゃんが眠ったら食べられちゃうかもしれないよ?」
「えっ……あっ、アハハハハっ、やだな先輩たらまた冗談を」
「ううん、これは冗談じゃないよ」
「えっ……」
「桃ちゃんはさ、オレの事どう思う?」
富岡先輩は私をじっと見つめた。
その表情は、さっきの本を読んでいた真剣な顔で、私はなんと返事していいものかわからない。
「返事がないと、本当にここで……」
先輩が机から立ち上がり、私側へと近づく。