私達は山寺先輩がいれてくれた、あたたかいココアを飲みながら、ダイニングのソファーに小さく固まって座っていた。

「とにかく、今日は私達もいるし、お巡りさんもパトロールしてくれるっていうから大丈夫だよ」

「うん……。ありがとう桃香ちゃん」

 ねねちゃんも大分落ち着きを取り戻した様子で、私も幾分かホッとした。

「そう言えば持明院先輩、お風呂長いですね?」

 お巡りさんが帰った後、持明院先輩は興奮し過ぎて大量に掻いた汗を流すと言い、お風呂に行ったっきり、かれこれ1時間以上帰って来ない。

 順番からいって次は山寺先輩だったのだが、先輩は一日くらい風呂なんて入らなくていいと言ってその順番が回ってきたのだ。

 しかし他人の家のお風呂で更にあんな事があった直後で、これだけ長風呂出来るのはさすが持明院先輩だと思う。

「よしっ! 作戦は完璧だっ!!」

 そしてそんな話題の真っ最中にタイミング良く帰って来るのも、持明院先輩だ。

「さ、作戦?」

 お風呂上がりで体中から湯気を出した先輩は、私たちの前で仁王立ちで現れた。

 ちなみに、寝間着はねねちゃん以外全員学校指定のジャージである。

「随分長風呂されてましたが、もしかして……お風呂でずっとその作戦とやらを考えていたんですか?」

「風呂は心身共に清める場、ゆっくり入って何が悪い!?」

「それはまぁ、そうなんですが……」

 こんな騒動の起きた時にそれが出来るのは、持明院先輩くらいなものだろう。

「それで、輪ちゃん作戦って?」

「よし、よく聞け! 玄関前でこの持明院輪様が待ちかまえ、更に二階の部屋の前には彰、最後の砦、女子二人の寝室にはマサキを配置! どうだ完璧な采配だろう?」

 いや、それはとても単純な見張り番のポジションであって采配なんてものとはほど遠い。

 そんな事にこんな長い時間がかかっていたなんて……。

 んっ? でも、という事は……

「えっ!? ちょっと待って下さい、先輩たち寝ないんですか?」

「あたりまえだろう! オレたちが何をしにココに来たと思っている!」

 持明院先輩はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「黒い女を捕獲する為に決まっているっ!!」

 ツチノコやらイエティならいざしらず。

 捕獲したところで、警察に通報して終わりなんじゃ……。

「まぁ、捕獲は冗談だが、得体のしれない女からオマエたちを守るのが役目なのでな」

「えっ……?」

 持明院先輩が、珍しくマトモな事を言っている。

「あっ……でも、それなら私も見張りをします! 元々、ねねちゃんの力になりたいって言ったのは私ですし……」

「フンっ! せっかく入った新入部員になにかあったら部長として面目が立たないだろうが!?」

「大丈夫だよ……富岡はもちろんだけど、こうみえて持明院も空手の有段者だし、俺は……ケンカとかは苦手だけど、一応男だから……」

「そうそう、お姫様たちは守られてればいいよ~」

「で、でも……」

「いいからいいから~、桃ちゃんの友達はオレが絶対守るからさ、勿論桃ちゃんの事も、オレに守らせて?」

「えっ……あっ……」

 いつになく真剣な表情の富岡先輩に、私は心臓の脈拍を早めるくらいしか返事が出来なかった。

 鏡を見ないでもわかる、今、私の顔は真っ赤になっている。

「桃ちゃん?」

 さらに、ぐっと富岡先輩は私の顔に顔を近づけた。

 ヤバイ、心臓はもうマックスの速度だ。

「じゃあっ、も、もも、もう……寝ましょうか!? 遅いですし」

 ようやく声を出せたが、大分噛み噛みだった事は言うまでもない。

 だが時計の針を見れば、既に12時を回っている。

 私の提案にみんなは同意し、各自、持明院先輩の指示どおりに従った。