どのくらいの時間が経ったのか、そのまま気を失っていたねねちゃんが辺りを見渡すと、うっすらと朝の陽光が玄関に差し込んでいた。
あんなに吠えていたマロンの声も今はなく、ただ静寂と壁の時計の音だけが響いている。
時計を確認すると、時刻はもうすぐ6時になろうという所だ。
(あの女は、あのあとどうしたんだろう……)
未だに恐怖が頭を占めてはいたが、それ以上に外の様子が気になって、ゆっくりと壁伝いに立ち上がり、恐々とドアスコープを確認した。
そこから確認出来る範囲では、もう外には誰もいない。
少し安堵したと共に、何かザワザワと胸騒ぎがし始めた。
(一体あの女は、何をしに来たんだろう……)
扉を開ける事は少し躊躇したが、遠くに新聞配達のバイク音が聞こえて来たのをきっかけに、扉を開ける決心が着いた。
チェーンはしたまま、鍵をゆっくりと回す。
わずか15センチ程の隙間からは、すっかり朝を迎えた陽の光が差し込んで来る。
どうやら誰もいない様だ。
しかし、それと同時に違和感を覚えた。
いつもなら、こうやって扉を少し開けただけで玄関先の犬小屋から出て来て、シッポを振りながら吠えて来るはずのマロンの声がしない。
嫌な予感がした。
「マロンっ!!」
声を掛けるが反応が無い。
チェーンを外して、玄関を出たねねちゃんは、そこで愕然とした。
犬小屋の前にいるマロンは、赤い紐の様なもので口から全身をグルグルと巻かれ横たわっていたのだ。
「マロンっ!!」
幸いにもケガなどはしていない様子だったが、酷く怯えてしまっている。
ねねちゃんはマロンを抱きしめた、するとマロンの下から白い紙が一枚、ひらりと落ちて来た。
気になったそれを手に取り、見てみると……
そこには真っ赤な字で、こう書いてあったという──
『アカィ イト ハ キラナイデネ』
その後は、お母さんに警察を呼んで貰って、マロンを動物病院に連れていき事なきを得たそうだ。
警察の人も悪質なイタズラとみて、念のため周辺をパトロールしてくれる事になったそうなのだが……。
「その日から……学校の行き帰りに女を見る様になったの…………」
「じゃあ、みんなが噂しているのは……」
ねねちゃんは頷く。
「あの女の事だと思う……。私も最初はただの噂だと思って関係ないと思ってたの、だけど……話を聞けば聞くほど、やっぱりアノ女なんじゃないかって思って……そしたら、昨日もまた……」
ねねちゃんは私に、あのメールを送って来たというワケだ。
「また……いたの。あの女が……うちの側に。ジッとコッチを見てた、笑いながら……」
ねねちゃんは、そう言うと頭を抱えてうずくまった。
「私、もうどうしたらいいのかわかんないっ!!」
「ねねちゃん! 放課後、私と一緒に来て欲しい所があるんだけど、いいかな?」
「桃香ちゃん……?」
私は、この事をアノ先輩達に相談してみようと思い立った。