異様に長い髪、真っ黒なワンピース、吠えるマロンを首を傾けた体制で、ジッと見つめている。
(なんでっ!? 私が何をしたっていうの!?)
両手でなんとか口元を押さえ、悲鳴を押し殺す事がやっとだった。
それと同時に、一階を全部ちゃんと施錠したのかという不安が一気に押し寄せてくる。
お母さんを起こすべきかとも考えたが、ねねちゃんのお母さんは不眠症を患っていて、いつも睡眠薬を使っている為、恐らく起こすのは難しいと思った。
それよりも何かあった時の事を考え、スマホを探した。
(警察に電話……)
だが、スマホが見当たらない。
(そういえば、さっき一階のリビングで充電させていたんだ!)
自室にうっかり持って来るのを忘れた事を、この日ばかりは本当に後悔した。
決心すると窓からそっと離れ、ゆっくりと息を押し殺し階段を降りて一階へと向かった。
床や階段を歩く度、ミシっという軋む音が室内に響いてしまい、もしかしたらあの女が気付いてしまうのではないかという不安ばかりが襲う。
そうして、なんとか一階に着くとまずは居間、お風呂場、トイレまで全ての窓の施錠を確認した。
それから台所に入りまずスマホを探した、ダイニングテーブルの上のそれは容易に見付けられたのだが、その時だ。
ガタンっ! ガチャガチャっ……!!
玄関の方から音がする。
確かに寝る前に玄関はチェックしたので大丈夫だとは思うのだが、こんな時だと確信が持てなくなる。
ねねちゃんはスマホを握り締め、ゆっくり息を殺して玄関に近づいた。
扉を一枚隔てた所にあの女がいる!
それだけでも相当な恐怖だ。
玄関の扉はしっかり施錠されていた。チェーンも掛かっている。
少し安堵した、また同時に今あの女がどうしているのかが気になった。
まだ、マロンは吠え続けている。
多分、まだ女はいるのだろう。
不安と好奇心に駆られ、そっとドアスコープで外を確認した。
「ひっ…………!!」
そこには、こちらを覗き込もうとする狂った様な女の笑顔があった。
玄関先にある非常灯のぼんやりとした明かりの中で、真っ赤な口紅が歪んだ微笑みを作っている。
見開いた目が、まるでこちら側を見透かしている様だった。
あまりの恐怖に腰を抜かして玄関にしゃがみ込み、膝を抱えてガタガタと震え?その場から動けなくなった。