先週の土曜日の事だ。
ねねちゃんは、この学校の最寄駅から2駅程の距離にある、予備校に通っているそうだ。
その予備校の講師に、男子大学生の岡部守(おかべまもる)さんという先生がいるのだそうだが、彼は見た目も良く優しくて、教え方も上手い為、女子生徒たちからカナリ人気があるらしい。
以前からねねちゃんもその先生に憧れていて、その日は授業が終わった後、先生の帰りを予備校の前で待っていた。
金曜日は先生の誕生日で、ねねちゃんは持って来たプレゼントを渡したかったのだそうだ。
時刻は22時を過ぎた頃、やっと予備校のあるビルから出て来た先生にねねちゃんは声をかけた。
「先生!」
「おおっ、豊国じゃないか? どうした? おまえもう授業とっくに終わったろ?」
「先生の事を待ってたんです」
「だめだろ? こんな時間まで女の子が一人で、何かあったら……」
「ご、ごめんなさい! でもどうしても先生にコレを渡したかったから」
ねねちゃんは先生にプレゼントの包みを差し出すと、先生は困った表情を浮かべながらも笑って受け取ってくれた。
「ありがとう豊国、駅まで送るよ」
「はっ、はい……」
そこから二人並んで駅まで歩いた。
先生と二人きりで帰るのは初めてで、ねねちゃんは緊張して何を話たかも覚えていないそうだ。
ただ、その時間は本当に幸せ過ぎて、この後に起こる恐怖など想像もしていなかったという。
先生に駅まで見送ってもらい、地元の駅に着くと雨だった。
普段は自転車を使っているが、雨の勢いは増すばかりだったので、仕方なく自転車をおいて駅から10分ほどの家までの距離を、運良く持っていた折りたたみ傘を開いて歩きだした。
駅前のロータリーを過ぎて、国道に出ると車の通りこそあるが人は全く歩いていない。
ぽつぽつとある街灯だけが頼りの寂しい道を、ねねちゃんは一人歩いていた。
すると──
後ろに気配を感じた。
ヒタヒタヒタ……
確かに、雨音に混じって誰かの歩く足音が聞こえる。
こんな夜道だ、色々と怖い想像が頭を巡った。
気が付けば、気配をすぐ後ろに感じる。
(痴漢だったらどうしよう……)
先に追い抜いてもらおうと、ねねちゃんは歩くスピードを緩めた。
ヒタヒタヒタ……
しかし、ナゼか相手もねねちゃんのスピードに合わせる様に、ピタリと後ろをついて歩いてくる。
危険を感じたねねちゃんは、思わず後ろを振り返った。