「桃香ちゃんみたいな可愛い子をほっておくとは、最近の男というものはけしからんの~」

「あはは……」

 私は乾いた笑いで答えていた。

 可愛いといっても、おじいちゃんの言う可愛いほど信用出来ないものはない。

 この世のほとんどすべてのおじいちゃんにとって、孫というモノは無性に可愛い存在であって、決して容姿が端麗だという事ではないのだ。

「でも、好きな人くらいはおるんんじゃろ?」

「すっ!? 好きな人!?」

 そう言われて、私の頭の中に三人の先輩たちが不意に思い浮かんだ。

 いや、違う違う! これは好きとかじゃない!!

 ちょっとばかしイケメンと知り合って、ちょっとばかしときめいてしまっているだけで、恋とは全く違う!

 特に、持明院先輩だけは絶対に違う!!

「いっ、いない! いないよ! そんな人!」

「そうなのかい? 桃香ちゃんのおめがねにかなう人はなかなかいないのかの~」

「そ、そうだね~」

 おじいちゃんはこれまた、残念と小さく嘆息していた。

 私は未だ心臓のバクバクが収まらず、おじいちゃんに悟られない様にそれを整えるのに必死だ。

 しかし、昔からこのおじいちゃんは何か人の心見透かす様な不思議な力を持っている、そんな気がする。

 ちょうどその時、私のスマホがポケットの中で何度か振動していた。

 確認すると画面には現在の時刻と共に、メッセージアプリから新着メッセージが来た通知が表示がされていた。

「あっ、そろそろ夕飯の時間だね。私、お母さんを手伝って来るよ」

「おぉっ、そうかもうそんな時間か。じーちゃんはあと少しトレーニングしてから戻るとするよ」

「うん、わかった」

 そうして、私が家の中へ入ろうとした時だった。

「桃香ちゃん」

 おじいちゃんの声に呼び止められる。

「えっ?」

 後ろを振り返るとおじいちゃんはなんだか困った様な、戸惑った様な表情をしていた。

「…………恐ろしい物は霊だけじゃない。世の中にはもっと恐ろしい物もおるんじゃよ」

「おじいちゃん……?」

 私は、突然そんな事を言われて首を傾げた。

「ああ、いやいやっ、なんでもない……すまんすまんっ」

 そうしてまたシワシワ笑顔に戻ると、何事も無かった様に再び筋トレを続ける。

 私は不思議に思いながら、自宅の玄関に入ると先程のメッセージを確認する為にアプリを開いた。

 メッセージは、ねねちゃんからだ。



 鶴岡ねね
『どうしよう……また黒い女がいる』