私は、何かにずっと脅えているねねちゃんを宥めながら、駅前に辿り着き、バス停迄送り、彼女がバスに乗るのを見届けた。
そして、何かあったらすぐ連絡してねとそう言ってから帰路についた。
ねねちゃんは一体、何にそんなに脅えていたのだろう。
なんだか胸がザワ付いていた。
今日は少し早めの帰宅だったが、ウチに着く頃にはもう日が暮れ初めている。
最寄駅に降りるとおつかいを頼まれていた事を思い出し、ドラッグストアに立ち寄って、それから自宅迄は自転車を走らせ私は自宅のあるお寺に帰宅した。
境内へ入っていくと、Tシャツにジャージ姿のお坊さんが鉄アレイを両手に持ち筋トレをしている。
「おじいちゃん! ただいま~」
「おぉ~っ、桃香ちゃんおかえり~」
「頼まれていたプロテイン、買って来たよ~」
そう、先のおつかいは趣味・筋トレ。
特技・重量挙げ。
マッチョ坊主の異名を持つこの藤城寺の和尚、私のおじいちゃんの物であった。
因みに、今おじいちゃんが着ているTシャツには[ひじき]と筆で書いてあるのだが、これは私の趣味の面白Tシャツコレクションの中から、お気に入りのデザインの物をお揃いでおじいちゃんにプレゼントしたものである。
「お釣りは桃香ちゃんにあげるからな~」
「ありがとうおじいちゃん。しかし、毎日よく続くよね?」
おじいちゃんは、本当にパワフルだ。
齢、77歳にしてバリバリのアスリートで、老人会の運動会では神的存在として君臨している。
近所のスポーツジムにも、お寺のお勤めの前後には必ず通っているらしい。
2時間弱の通学で、ヘトヘトの私とはワケが違う。
「筋肉は毎日使ってやらんと衰えるからの~」
そう言って、おじいちゃんはシワシワの顔を更にシワシワにして微笑むと、力こぶを作って見せた。
「はぁ……使わないで衰えるなら、このまま霊感とやらも無くなって欲しい……」
思わず、本音が口を付いて出ていた。
「ハっハっハっハ! そうじゃの~」
おじいちゃんは、そんな私の独り言に豪快に笑っている。
「そういや~桃香ちゃん、彼氏の方はどうなんじゃ?」
「へっ!?」
私はナニもない所で思わずガクっとスッ転びそうになった。
「ななななっ、何言ってるのおじいちゃん!?」
「彼氏じゃよ、彼氏! もちろん、高校生になったことだしいるんじゃろ?」
「いっ、いないいないないよ! いるわけないでしょっ!?」
「そうなんか? 桃香ちゃんは可愛いのにの~……」
おじいちゃんはえらく残念そうだ。