私は、珍しく早めに終わった部活(いつもなら持明院先輩ご自慢の心霊動画やら心霊写真品評会が行われる為、カナリ遅くなる)にただただ歓喜しながら、高等部一階の下駄箱へと向かっていた。

「桃香ちゃん!!」

 そこには、いつも部活のせいで中々下校時間が合わない、ねねちゃんの姿があった。

「ねねちゃん!? あれっ? 部活は?」

「今日は、グランドの整備でお休みなんだ。だから桃香ちゃんと一緒に帰りたくてここで待ってたんだよ」

「そうだったんだ! ありがとう! 私は今終わった所なんだ。一緒に帰ろう」

 なんだか普通の高校生に戻れた気がして、私のテンションはうなぎ登りだ。

 といっても、別にいつもがそこまで普通でないという訳ではないが、心霊とかオカルトとか怖い話しとか、そんな事を考えなくて良い時間が、最近の私には少ない気がする。

 私とねねちゃんは高等部の校舎を出て中庭を抜け、表門を目指して歩いていた。


 すると、突然ねねちゃんの足が止まる。


「ねねちゃん?」

「桃香ちゃん……裏門から帰らない?」

「えっ? 裏門? 遠回りになっちゃうよ?」

「せっ、せっかく桃香ちゃんと帰れるんだもん! ゆっくりお話しでもしながら帰りたいな~って……ダメかな?」

 ねねちゃんは、上目遣いでそう尋ねて来た。

 私より若干背が低いねねちゃんが、可愛い顔で少しおどけながらおねだりをしてくる。

 やはり、ねねちゃんは女子力が高い。

 ねねちゃんの甘え上手な所を見習おうと、私は強く思った。

 もしかしたら、もしかしたらだが、そんな風におねだりが上手ければ、私も持明院先輩の呪縛から解かれるなんて事もあるかもしれない。

 ぼんやりと想像してみたが、鼻で笑われる想像しか残念ながら出来なかった。

「桃香ちゃん?」

「あっ、うん、そうだねたまには良いかも!」

 私達は踵を返し、裏門の方へと向かった。

 裏門は、中等部校舎をぐるりと周った場所にあり、大通りに面した表門とは違って裏路地の方へと出る様になっている。

 私達は、今日あった何気ない話しをしながら、裏門を出て路地を駅前の方へと歩いていた。

「それで、音楽の授業の時にやっぱり私が間違えてた事に気付いたんだよ~」

「クスっ、そういうの桃香ちゃんらしい……っ……」

 それまで楽しそうに、私の話しを聞いていたねねちゃんの表情が突然強張った。

「どうかした?」

 ねねちゃんの歩みも、それと同時に止まっている。

「…………今、アノ電柱の影に……」

 ねねちゃんは、微かに震えていた。

 顔色がみるみる内に青ざめ、口元を片手で押さえながらもう一方の手で指を差す。

「電柱?」

 私は、ねねちゃんの指差す電柱の方を見た。

 しかし、そこには何もない。

「何もないみたいだけど……」

 ねねちゃんはガクガクと震え出し、後退りする。

 その様子から、何か尋常じゃない事は察知出来た。

「ちょっと待ってて?」

 私はねねちゃんの言う電柱の方へと走り寄った。

「桃香ちゃん!?」

 近くに寄って確認したが、やはり何も無いし特に変わった所も見当たらない。

「大丈夫だよ~。何もないよ?」

 そう私が言ったと同時くらいの速さで、ねねちゃんが私の方へ走って来て思い切り抱き着いた。

「っ!? ねねちゃん?」

 ねねちゃんは、まだ震えていた。