「…………誰か……いるの?」

 振り返るが、教室内は静まり返っている。

「気のせい…………?」

 暗闇でよく見えない。目を凝らして、真っ暗な空間をジッと見つめた。


「…………く……るしい…………」


 どこからか声がする。

「たす……けて……」


 今度は、ハッキリと聞こえた。


 確かに、この部屋の中からだ。


「誰か、いるんですか?」


 私がそう言った途端、カーテンの隙間からいきなりゾンビ(?)が出て来た。


「うぉぉぉぉぉ~っ!!」

 ゾンビは突然、雄叫びを上げる。

「きゃあああああっ!!」

 私は思わず、その場にしゃがみ込んでしまった。

 それと同時に頑なに閉じていた扉が、スパーン! と勢い良く開く。


「どうだっ!? 何か起きたか!?」


 持明院先輩が、興奮気味に入って来た。

 私はその場にしゃがみ込んだまま、持明院先輩とゾンビを交互に何度も見比べる。

「うんにゃっ。な~んも特別な事は起きてな~いよんっ」

 ゾンビはお手上げの体制で言った。

「いっ、一体なん、何なんですかっ!?」

「あ~っ、ゴメンね~……ほら立てる?」

 ゾンビは手を差し出して、私を引っ張り起こしてくれた。

「おかしいな、やっぱり偽物じゃダメなのか……それとも」

 持明院先輩はブツブツ言いながら、教室の中を行ったり来たりしている。

「あっ、あの~……」

「んっ? あっ~、アイツは気にしなくていーよ。オレは高等部二年の富岡(とみおか)マサキよろしくね」

 そう言ってゾンビマスクを外すと、中からこれまたすんごいイケメンが出て来た。

 短めの髪が、少し日に焼けた肌にとてもマッチしている。

 スポーツ万能の好青年、少女マンガから抜け出てきたといっても過言ではない。

ニッコリと微笑んだその笑顔に、思わずドキッとさせられてしまう。

校内にもしかしたら、この人のファンクラブとかがありそうだ……。

「お~い、ちゃんと説明しなよ~?」

 富岡先輩がそう言うと、持明院先輩はこちらにツカツカと歩いて来て、目の前にある机に脚を組んで座った。

「フン、オレは高等部二年の持明院 輪(じみょういんりん)だよろしく」

「よっ、よろしくお願いします……。そっ、それで、一体、これはなんなんですか!?」

 持明院先輩は机から立ち上がりすぐ近くまで来ると、上から下までマジマジと私を見た。あまりに顔が近すぎて、思わずドキドキしてしまう。

「貴様の家は、寺だな?」

「…………!?」

 あまり知られたく無かったここでは必死に隠し通して来た事実を、突如見ず知らずの先輩に指摘され、私は言葉が出なかった。