数日後。
行方不明になっていた森下さんが、放心状態で学校の体育館倉庫で見つかった。
命に別状はなく、ケガもしていないが自分がドコにいたのか、ナニをしていたのか全く覚えていないそうだ。
「あああああっ!! なんでアノ時、オレだけ鏡の少女の霊が見えなかったんだ~!!」
そう、あの日。
持明院先輩には堂本さんの姿はやはり全く見えず、ただ奇声を上げる森下さんが、いつのまにか姿を消した様に見えたそうだ。
「まぁまぁ輪ちゃん、突然人が消える神隠し現象を見たって思えばいいんじゃない?」
富岡先輩は相変わらずのナイスフォローだった。
「フンっ! いいだろう! 今回はそれで勘弁しといてやる!」
誰に向かって言っているんだか……。
「堂本さん……大分回復して来てるらしいよ……順調なら来月には退院出来るって……」
私の隣に座った山寺先輩がぼそっと呟く。
「そうですか、良かった」
堂本さんのツリーターを荒らしていたのは、森下さんが二股をかけていた下級生だったそうだ。
山寺先輩がそれを突き止め、彼女は放送部を退部。
森下さんとも別れたらしい。
「村井さんと堂本さん、二人は仲直り出来るでしょうか?」
「うん……きっと、彼女たちなら大丈夫……」
あの日、私は村井さんにこの事件の真実をすべて聞いた。
「私ね……愛が好きだったのよ」
それは、唐突な村井さんの告白から始まった。
「えっ? えっと、それって友達的な、ですよね?」
「いいえ、違うわ。恋愛対象として……ずっと好きだった、だから愛には絶対に幸せになって欲しかったの」
つまり、村井さんは堂本さんではなく、森下さんの方に嫉妬していたって事?
「でもね、この思いは伝えずにずっと心の中にしまっておいて、愛にちゃんと好きな人が出来た時は心の底から応援するつもりだった……なのに」
堂本さんが好きになった人は、運悪くアノ森下さんだった。
村井さんの気持ちは、さぞ複雑だったろう。
「私……あの『鏡詣り』の日、森下をカッターで刺そうとしたのよ」
「えっ!? どういう事ですか?」
「アイツの本性を知っていた私は、以前から愛に何度も別れる様に説得したの。でも、ダメだった……当の森下もいいように使える愛と中々別れようとしなかった、そんなある日、決定的な事が起こったの……」
「決定的?」
「森下が部室で新入生の彼女とキスしている所を、私と愛は見てしまった……愛は、森下を呼んで話合いをしたいと提案していたけど、アイツはいつも動画の事ばかりでマジメに話をしようとしない、それでね、私が鏡の噂話を捏造しておびき出したのよ」
村井さんは、そのときの事を思い出しながら話はじめた。
「動画配信をする事前の打ち合わせの時、森下は既にニセの霊の声を流す事を提案してきた、その時よ、森下に私は例の下級生の事を聞いたわ……そしたらアイツ、なんて言ったと思う? 『それでも愛はオレが好きなんだろ?』って言ったの……」
村井さんは悔しそうに、両手を握りしめていた。
「私はもう限界だった、森下になんとか罰を与えたかった。愛には軽蔑されるかもしれない事も覚悟した。二人を驚かして、その隙に森下を刺そうとした、でもねその時、愛がかばったの……森下を、あんなヤツでも愛はきっと本当に森下が好きだったのね……」
村井さんは泣いていた。
「私、思わずどうして? って呟いていた、そうしたら愛は言ったのよ……なぜか私に『ゴメンね』って……その直後だった。愛は階段を踏み外し、ケガをした……カッターの傷は大した事なかったけど、頭を強く打って、この事を忘れていた。私も森下の事を悪く言えないわ、愛にケガをさせた罪悪感からアイツの提案に乗ってこの事を秘密にする事にしてしまったんだから……」
泣きじゃくる村井さんに向かって、山寺先輩がカメラのシャッターを切った。
そして、撮影した写真を確認するとこう言った。