私は床に落ちた長い髪を拾い気づく。

「ウィッグ?」

 そして、そこにいたのは──

「森下さん!?」

「やっと、尻尾を出したのか! まぁっ、貴様だと大体想像は付いていたがな」

 持明院先輩が本当にそう思っていたかは謎だが、富岡先輩が放すと森下さんはその場に崩れる様に座り込んだ。

「早く白状しろ! アノ動画の音声はニセモノだったって」

 持明院先輩は、未だその事で怒りが冷めやらないらしい。

「はっ!? 別にそんな事いくらでも言ってやるよ、ナニ? オマエらの真相ってそれ? バカバカしい……」

 森下さんはそう言ってほっとしたのか、鼻で笑ったがそれはある意味別に隠していた事を白状する様なものだ。

「……本当に知られたくない事が……あるんだね……?」

「っ!?」

 山寺先輩の問いに、今更だが森下さんはハっとなり口を押さえた。

「……おっ、オレは悪くない! 村井が……あいつがいけないんだ……」

「村井さん?」

「そ、そうだよっ、全部村井の仕業だ! オレは関係ない!」

 森下さんの怒声が、しんと静まりかえる階段に響き渡る。

 すると、今度は別方向から声が聞こえた。

「そうよ、これを全部仕組んだのは私……」

 いつの間にか、踊り場の影に潜む様にいた村井さんが立ち上がった。

「村井さん……」

「そして、愛を階段から落としたのも私よ」

「あっ!? おいっ、オマエそれはっ……!」

 村井さんの一言で森下さんはカナリ動揺しているようだったが、村井さんは落ち着いた様子で言った。

「愛はね、階段から落ちた衝撃で強く頭を打って、落ちた時どころか……鏡詣り時の記憶をなくしてるの」

「えっ!? それじゃあ……」

「彼女を階段から落としたのを見ていた森下は私にこう提案してきたの、言うことを聞けば愛には黙っていてやるって……それで私、森下の偽心霊動画を拡散する手伝いをさせられた」

「はっ!? ナニ言ってんだよ! オマエ、オレはそんな……」

「森下、貴様には発言権などない!」

 持明院先輩は人差し指を森下さんに向けて、ピシャリと言い放つ。

「くそっ……」

 森下さんは持明院先輩の気迫に押され、黙り込んだ。

「元々、アレは偽物の霊の声だけを録音しただけの動画だった……スマホで録音した私の声を流しただけの。でも、それぐらいじゃ視聴数は伸びない、もっとインパクトが欲しいって、撮影中もずっと彼は言っていた」

 恐らくニセモノの心霊ボイス程度では、話題にもならないと森下さんは思ったのだろう。

「最近の動画はより過激なほど視聴数が伸びるから、愛が階段から落ちたのは、森下にとって良いアクシデントだった」

「あっ、アレはっ! だ、だいたい元はオマエが……」

 何かを言い掛けた森下さんの言葉を遮るように、村井さんは話続ける。

「森下の思い通り、動画は話題になったわ……噂が噂を呼んだ。愛のケガした事はいつのまにか鏡の少女の霊にケガをさせられたという話となって広まり、私たちもその噂に乗って見てもいないけれど鏡の少女の霊を見た事にした、動画の視聴数は更に物凄い勢いで伸びた……」

 どうやらこれが、今回の『鏡詣り』騒動の真実らしい。

「この前、私たちがここに来た時、村井さんがいたのは……」

「ああ、あれは森下の指示よ、これ以上あなた達に探られたら面倒だから、とりあえず偽心霊ボイスを聞かせれば納得するだろうって……」

「も、森下~~~おのれ~、この持明院輪がそんなニセモノで満足すると思ったのかっ!?」

 満足しかけてましたよ、持明院先輩。

 でも、もう一つはっきりしていないのは、村井さんが堂本さんを階段から突き落とした理由だ。

 やはり、村井さんは森下さんと付き合っていたのだろうか?

「あの……やっぱり、村井さんは森下さんと……」

 そこまで言った私の体に、一気に冷たい空気が纏わりついた。