ポタ……ポタポタ……ポタ……ポタ……
「水滴……?」
それは水の音だった。
ゆっくりと少しずつ落ちて伝う、水音。
ふと、懐中電灯を音のする方へと向けた。
そこには……
「誰だ!?」
持明院先輩が叫ぶ。
階段の上、鏡の前の踊り場、懐中電灯に写し出されたのは血塗れの女子生徒だった。
長い髪で顔は見えないが、ウチの女子制服を着ている。
体の所々に赤黒いシミが付いており、スカートの裾からポタポタと赤い滴が落ちているのが見える。そして、張りつめた空気を揺らしアノ声が聞こえた。
「ゅる……さな……い……ゆるさない…………」
「今度こそ幽霊かっ!?」
「いえ、持明院先輩に見えているのならニセモノです」
声は不気味に響いているが、禍々しさとは無縁な程に聞けば聞くほど人工的だ。
「じゃ、じゃあ、あの血はなんだっ!?」
「おそらく……血のりかね~」
「……ピントが合ってない、人間だね……」
いつのまにか、山寺先輩はカメラを向けてシャッターを切っていた様だ。
「貴様~この持明院輪様をよくもたばかったな!!」
「……チッ!」
先輩が怒声を上げたと同時に、突然血みどろの霊のフリをしていた人は苦し紛れに階段隅にある消火器を投げつけて来た。
「きゃっ!!」
消火器は私の方へと向かって落ちて来ている。
私は咄嗟に頭を庇って、その場にしゃがみ込んだ。
「桃ちゃん!!」
「藤城さんっ!!」
「藤城っ!!」
私の前に突然持明院先輩が盾になって立ちはだかり、それと同時に、山寺先輩に腕を引かれた私はなんとか消化器から身をかわせた。
そして階下へ落ちる寸前に富岡先輩が護身用に持っていた竹刀で消火器を薙払い、三人の連携プレーで私は事無きを得た。
「大丈夫、桃ちゃん!? ケガは?」
「だ、大丈夫です、先輩達のおかげです」
しゃがみこむ私を見た持明院先輩は、見た事も無いような形相で怒りを露わにしていた。
「貴様! ウチの部員を傷付けようとするなど言語道断! 笑止千万! 行けっ、マサキ!」
「おっけ!」
富岡先輩はその素晴らしい運動神経で一気に階段を駆け昇り、逃げようとした血塗れの少女を羽交い締めにした。
逃げる時点で幽霊じゃない事は確定だ。
「つ~かまえた! ねぇねぇ~、幽霊なのに触れたよん」
「そいつが純粋無垢なオレを騙していた、張本人だなっ!?」
あまりにも純粋無垢というワードは、持明院先輩とかけ離れ過ぎている。
観念したのか、羽交い締めにされた鏡の少女もどきは叫んだ。
「ヤメロっ! おまえら、放せっ!! クソっ!!」
ジタバタともがいて、逃げようとするが富岡先輩はガッチリと偽・鏡の少女をホールドしたまま離さない。
持明院先輩が側に行き、少女の顔を覆っている髪を手で掻き分け様とすると、ズルっと髪は床下に落ちた。