「輪ちゃんは、どう思う?」
わかりやすい程、機嫌の悪い持明院先輩に気を利かせた富岡先輩が声を掛けた。
「幽霊じゃないならもう興味は無いっ! それより森下をギャフンと言わせる手だてを考える方が先だっ!!」
そう叫びながら脚をバタバタさせる先輩は、ただの駄々っ子だ。
「はいはい、それはまた今度ね~。それより輪ちゃん、好きだったじゃんミステリー小説。この事件、輪ちゃんなら解けると思うんだけどな~」
バタバタしていた持明院先輩の脚が、止まった。
「……まっ、まぁっ、そうだな。この持明院輪にかかればそんな事件、立ち所に解決してやる!」
突然、やる気満々になった持明院先輩を見て私は思った。
富岡先輩、あなたはスゴイ人です。
アノ持明院先輩を見事に飼いならしているのだから……。
そこへ、立て付けの悪い部室の扉をガタガタと開けて、最後の一人の心霊研部員が入って来た。
「……おはよっ……」
今日もカナリ眠そうな山寺先輩だ。
「お~す彰~、もう観てるよアノ動画~」
私たちの観ていたPCの画面をチラリと見ると、山寺先輩はまたいつものソファに腰をおろした。
「で……どうだった?」
「まっ、やっぱりニセモノだよね~」
「フン、オレも薄々は感づいていたがな」
持明院先輩、嘘はやめましょう。
「だが! この事件は名探偵と言われたこのオレが華麗に解いてみせるぞ! ハハハハハっ……」
多分、名探偵の名の字は迷うの方だろう。
けれど、声高らかに笑いながら机の上に足を乗せ、持明院先輩はふんぞり返っている。
「事件って……?」
山寺先輩は無表情のまま、首だけを傾げる。
「あっ、はい、コレがニセモノの心霊ボイスだとしても、どうして堂本さんは入院するほどのケガをしたのか、それと、何故私たちにまで声を聞かせたりしたのか、この二つの疑問が出て来てしまって……」
「……それなら、少し堂本さんの事で気になる話を聞いた……」
「なになに~? なんか新情報?」
「うん……堂本さんのツリーターが、ここ数週間荒らされていたらしい……」
山寺先輩は立ち上がると、PCのキーボードを操作してサイトを開いた。
ツリーターは、一言投稿が出来るコミュニケーションアプリだ。
ブログの短文版といった所だろう。
私はやっていないが、写真と共に一言載せたり、芸能人のなら見た事もある。
「内容的には……森下くんと別れる事を薦める様なモノがほとんどだったみたいだけど……」
画面に表示された堂本さんのページには、確かにそんな内容の暴言がいくつかカキコミされているのが目に付く。
「へ~、いわゆる嫉妬ってヤツかね~」
文面はどれも似た様なものだ。
そして、最後の投稿にされたカキコミに、私の視線は止まった。
『森下と別れないなら……オマエは呪われる』
「呪われる……こんなカキコミまでされるなんて、嫉妬って怖いですね」
「呪いだ? バカバカしい! こんなインターネット内でほざくヤツが呪いなんてたいそうな事が出来るワケがないだろう!? まっ、オレならどんな呪いも跳ね返す自信はあるがな!」
持明院先輩に呪い……。
確かに、確実に跳ね返っていきそうだけど。
「ふ~ん、じゃあさ、少なくとも堂本さんがケガした事で喜んでるヤツはいるって事だよね」
「えっ……?」
「だって~、こんな風にやっかまれてたならさ~、案外近くの人かもよ~? 荒らしていた張本人って」
「それって……」
「……村井さん……確かに、現場にいた彼女がどさくさに紛れて突き落としたというのもあり得ない話ではないね……」
「それは、そうかもしれませんけど、でも……」
「わかったぞ! 犯人は村井だ! 犯行現場に犯人は戻るとよく言うだろう!!」
決まったとばかりに、持明院先輩はドヤ顔でフンと鼻を鳴らした。
「えっ!? でも、そんなの証拠もありませんし……」
「証拠? オレたちがアノ場所へ行った時にあそこにいたのがもう証拠だろう? 霊の声を聞かせ、オレたちに霊がいると納得させる、それで自分のやった事をごまかす算段だ!」
「確かにあの時、ニセモノの霊の声を私たちに聞かせたのは村井さんかもしれませんが、堂本さんをケガさせたのが村井さんかどうかは……」
それに、堂本さんがケガをした時、側には森下さんもいたはずだ。
だとしたら彼はその現場を目撃している。
何も言わないのには納得がいかない。
「証拠……というものになるかわからないけど、もう一つ気になっていることがある……」
「もう一つ?」