一つだけはっきりしているのは、この声もさっきの声も霊の声ではないという事だ。

「どうだ? やはりコレは霊の声かっ!?」

 気づけば僅か数センチの距離に持明院先輩の顔があった。

「いっ……いえ! 何も感じません!!」

 私はすぐに返答すると慌てて立ち上がり、持明院先輩との距離を取った。

 中身はどうであれ、カナリのイケメンの顔がキスしてしまいそうな距離に突如現れるのは心臓にとても悪い。

「つまり、コレはニセモノって事だよね!」

 富岡先輩はお気に入りのスポドリを飲み干しながら、ニヤリと笑った。

「そ、そうなのか!? フン、この持明院 輪様を欺くとは良い度胸だ!」

 持明院先輩はくやしそうに唇を噛みしめている。

「はい。霊とは無関係だと思います……」

「やっぱりね~」

 何故か富岡先輩は、当然とでもいう様に頷いた。

「でも、だとしたら誰がこんな事をしたんでしょうか?」

「それは~この動画が広まって、一番得しているヤツじゃない?」

「森下さんですか?」

「クソ~っ、森下を火炙りにしてやる!!」

 また火を使うんですか……持明院先輩。

「でも、いくら動画の視聴数の為でも彼女を階段から突き落とすなんてするでしょうか?」

「う~ん……いくらなんでもそこまでしないかな~?」

「あっ、あの~……富岡先輩」

「んっ?」

「どうして先輩は、コレが霊の声じゃないって思ったんですか?」

 私は、かねてから疑問に思っていた事を思い切って富岡先輩に聞いてみた。

 そもそも霊の存在を信じていないというなら、もう少し反応は違うだろうし、どちらかといえば富岡先輩は確信があって言っている感じだったからだ。

「えっ? あ~っ……それはね」

 チラっと富岡先輩は、持明院先輩を見た。

「制裁だっ! 制裁! 倍以上にして返してやらなきゃ気がすまん!」

 未だ持明院先輩は、森下さんへの怒りが冷めやらず自分の世界に入り込んでしまっている。

「持明院先輩がどうかしたんですか?」

「うん……あのね……コレはウチの部のトップシークレットなんだけど……」

 富岡先輩は私の耳元に唇を寄せて来た。

 一気に私の心拍数は上昇する。


「実はね……ごにょごにょっ……」


 そして、私は富岡先輩から衝撃的な事実を耳打ちされた。

「ぜっ、ゼロ感っ!? …………ってなんですか?」

「うっ、う~ん。なんていうか、輪ちゃんはね、そういうのが一切見えないし、感じないんだよね~」

「はっ?」

「とことん心霊とは無縁というか……絶対霊が見えるとかいう最強心霊スポットに行ってもさ、オレは見えんのに輪ちゃんには何も見えないとかしょっちゅうあったし、どんなに霊感の無い人でも感じるとかいう霊も輪ちゃんにはま~ったく感じられないワケ! だから、最近じゃ輪ちゃんが見て本物かニセモノか心霊映像や写真とか判断してたりするんだよね~」

「えっと……それって、持明院先輩が見えたり聞こえたりすればニセモノで、そうじゃなきゃ本物だという事でしょうか?」

「ご名答!」

 富岡先輩は苦笑していた。

 つまり、持明院先輩は自分が絶対に見えない、見る事が出来ない霊が見たいと言ってるという事か、それってもしかして、砂漠でごま塩探すくらいの無理難題を言ってるという事になる。

 でも、という事は……。

「この前の声も、持明院先輩には聞こえていたんですよね?」

「そう、つまり……」

「ニセモノって事ですか」

「クソ~……今度こそ本物の霊だと思っていたのに~…………」

 持明院先輩は、すっかりふてくされて机に突っ伏してしまった。

「でも……それならこの声を聞かせている人がいるって事ですよね? どうしてあの時、私たちにも声を聞かせてきたんでしょうか?」

「そうそう、そうだよね~、何が目的なんだろうね~」

「幽霊の声を聞かせる事で、何かメリットがあるんでしょうか?」

「う~ん、まぁ、考えられる事としたら……オレ達に幽霊の声を聞かせる事で霊の存在を納得させる。もしくは、幽霊の噂を更に広める為、とか?」

「だとしたら、声を聞かせて来た人はやっぱり……」

 私達は、同時に黙りこんだ。

 あの時、何故かあの場所にいた村井さん。

 彼女が森下さんに頼まれてやった、そういう事なのだろうか?

 それとも、元々『鏡詣り』の噂は村井さんがした話だ。

もしかして、全ては彼女が仕組んだ事なのだろうか?

 そう考えると一番しっくり来る気はする。

けれど、いくら動画の為とはいえ、堂本さんにケガまで負わせた肝心の理由がわからない。

 何か、個人的な恨みでもあるというのだろうか?