次の日の放課後。


 部室に向かった私は、教室に入る直前不意に何かの気配を感じた。

(これは……!?)

 今、確かに背後からの視線を感じる。

 何かまるで獲物に狙いを定める肉食動物みたいに様子を伺う視線が、私の背中に突き刺さっているのが伝わってきた。

 私には才能というべき霊感とか言う物が備わっている、この感じは明らかに人間だ。

(……霊的な物じゃないなら……コレッてまさか……!?)

 私が振り返ると同時に、その視線の送り主は、勢い良く突然私に後ろからしがみついて来た。

「桃~ちゃん!」

「…………ひっ!!」

「あははは~、驚いた~?」

 そう言って、私にしがみついた富岡先輩が笑った。

「なっ、何してるんですかっ!? 富岡先輩!」

「何って~……桃ちゃんともっと仲良くなりたいから、スキンシップをしておこうと思ったに決まってるでしょ~」

「はっ!?」

 理解するまでに数秒。

 私の顔に、みるみる血が集まって行くのがわかる。

「なっ、なにを言ってるんですか!?」

「アハハ、冗談冗談~」

「まったく、からかわないで下さいよ」

「ゴメンゴメン、でも、ちょっと本気だったんだけどね~」

 富岡先輩は突然真剣な顔で、私の事を見つめた。

「ほら、前に言ったの覚えてない? オレ、桃ちゃん結構好みのタイプなんだよね」

 このままだと、私は頭が沸騰して大変な事になりそうだ。

「知ってる? 一目惚れってね人を好きになる最も純粋な感情らしいよ」

「ま、また、ご冗談を……」

「う~ん、これは冗談じゃないんだな」

「ふぇっ!?」

 こ、これは、これも全部含めての冗談! とかじゃないんだろうか?

「なんとなくね、桃ちゃんとオレは相性が合うと思うんだよね」

「あっ、相性ですか……?」

「そ、いろんな相性……これもカンなんだけど」

 い、いろんな相性!?

 富岡先輩はいつもみたいな子供っぽい笑顔ではなく、どこか大人びた表情で私に微笑みかけた。

 恋愛経験ゼロの私には、これ以上返す言葉も、どんな顔をしていいのかもわからない。

 完全思考停止状態である。

「部室入らないの?」

 呆然としたまま、扉の前で直立不動の私に富岡先輩は悪びれもせずそう言って、豪快に部室の扉を開けると、中で持明院先輩が一人ふてくされていた。

「遅いぞオマエら! 昨日、放送部から借りたという動画を観るのだろう! マサキ、早く再生しろ!」

 そう言って、持明院先輩はノートパソコンの画面をこちらに見せて来た。

「動画? あぁ、例の『鏡詣り』のですか?」

「そうだ! オレにPCどころかスマートフォンですら全く理解出来んのだ! オマエか彰がいなければ、一生動画なんて観る事は出来ないんだぞっ!?」


 一生って……。

 どうやら持明院先輩は無類の機械音痴らしい。

 しかしその時、私に素朴な疑問が沸き上がる。