「…………ゆるさ……ない……ゆるさ…………なぃっ」
どこからか唸る様な声が響いて来る。
「この声はっ!? ゆっ、幽霊か!? やっぱり幽霊がいるんだな!?」
「この声……」
私は声の聞こえてくる方に耳を澄ませて、その発信元を探した。
どうやら声は村井さんの後ろから聞こえて来ている。
「ほ、ほらっ! 言ったじゃない!? 呪いよ、鏡の少女の……」
「ゆ……るさない…………」
「…………っ!?」
何?
村井さんの後ろに、何かうっすらとしたものが……
私は微かにだが、肌の泡立つ感覚がした。
そうしてそれは村井さんにまるで覆いかぶさるみたいに、グレーの影となり彼女を包んでいく。
「いっ、いや────っ!!」
村井さんは叫び、そしてその場に倒れ込んだ。
「村井さん!?」
私達が村井さんに掛け寄ると、いつのまにか影は見えなくなった。
「持明院、ちょっといいか……?」
「んっ?」
その時、何故か山寺先輩は持明院先輩と共に、鏡に向けてシャッターを一枚切った。
「そうか! 記念撮影だな! やっぱり幽霊はいたんだな!!」
持明院先輩は嬉しそうに瞳を輝かせ、満面の笑みで写真を撮られている。
「村井さんを保健室へ……」
「オッケー! まかせて」
山寺先輩が言ったのと同時に富岡先輩は、村井さんを軽々とお姫様抱っこで抱き起こした。
その後、私たちは部室棟を出て保健室まで村井さんを連れて行き、その後は保健の先生に彼女を委ねた。
「村井さん、大丈夫でしようか?」
「ただの貧血みたいだから、大丈夫だよ」
「ケガもしていなかったしね……」
テンション低めな私達をよそに、持明院先輩だけはウキウキしている。
「幽霊の生ボイス! これはもう奇跡だな!」
「……持明院……なあ、さっきの声なんて言ってた?」
「へっ? 許さない許さないって、ブツブツ女の声で言っていた! 録音して着信メロディーに設定しておきたいところだな」
「やっぱり…………」
そう言ったきり、山寺先輩は黙ってしまった。
「山寺先輩?」
「ねぇねぇ、桃ちゃん」
「はい?」
富岡先輩は、ポソっと私に耳打ちする。
「桃ちゃんは、さっきの声……何か感じた?」
「えっ……?」
まるで、私の心を見透かしているかの様な質問に思える。
そう、さっきの声。
私には、なにも感じられなかった。
霊感少女として人生を歩んで来た私が、幽霊の声らしきものを聞いたのに、一切そのレーダーが感知しなかったのだ。
「実は……、何も感じませんでした……」
霊感少女としてこの部に入部させられておきながら、いざとなったらその霊感が役に立たないなんて……。
確かに無理矢理入れられた部活ではあるが、なんだか申し訳ない気持ちで私は答えた。
しかし、私がそういうと、富岡先輩は満面の笑みを浮かべる。
「だよね~……」
「えっ……? それってどういう意味ですか……?」
「いいのいいの! 気にしないで!」
富岡先輩はそれ以上の事は何も言ってくれなかった。
「あっ! でも、声じゃなくて村井さんになら何か変な感じがして……」
「……変な感じ?」
山寺先輩は興味深そうに私に尋ねた。
「は、はい。なんていうか……霊とは違うんですけど、なんとなく良いモノではなさそうなものが纏わりついていて……」
「そう……」
そうしてまた、山寺先輩も黙り込む。
「幽霊はやはりいたんだ! オレに間違いは無かった!」
持明院先輩はずっと上機嫌のままだ。
あとの二人の先輩は謎を残し、その日はもうそれ以上、声について追及する事はなく解散した。



