「なんて事ない普通の鏡だな……」
喜び勇んで駆けだした持明院先輩は鏡を、ジロジロといろんな方向から見たり触れたりした。
「どうだ? この鏡何か感じるか?」
私はまた、ただ首を横に振った。
特に装飾などもない全身の写る大きな鏡は、確かに真夜中に一人で見たら恐怖を煽られる事はあるかもしれないが、それ以上でも以下でも無い。
持明院先輩には申し訳ないが、ここにも霊的なモノなんて微塵も感じない。
「まあいいだろう、儀式をすれば幽霊が出て来るんだろ? それならちゃっちゃとそれをやって幽霊を呼べばいい!」
怪談と同じ真夜中では無いので、もしその話が真実だったとしても、霊に遭遇する可能性は少ないと思うが、やはりこういうものは少し緊張する。
「藤城さん……いい?」
「あっ……はっ、はい!」
私たちは鏡の前に二人並んで立った。
山寺先輩は柔らかく微笑み、私の目を見つめて言った。
「もし……何かあっても、俺が……藤城さんを守るから……」
「はっ……はい!」
心臓がドキドキする。
さっきとは明らかに違う緊張感が私にはあった。
このドキドキは怖いからではない、私の手を握る山寺先輩に対してのドキドキだ。
私の手を握っていた先輩の手に力が入る。
これを合図だと思った私は、教えられていた言葉を発した。
「「私はカノ者を永遠に愛する」」
張りつめた空気が流れていた。
1分~2分、何か起こるかもしれないと周りに注意していた。
だが、特に異変はない。
辺りはしんと静まり返ったままだ。
鏡にもおかしなことは無い。
「おいっ! 幽霊は? 幽霊はどうした!? オレは幽霊に会いに来たんだぞ!?」
持明院先輩は、その場で子供の様に地団駄を踏んだ。
ふと、後から視線を感じた私は、階段の隅に座り込むように身を潜めながらじっとこちらを見つめている、鏡に写りこんだ人影に気づいた。
「誰っ!?」
すかさず振り向く。
「ど、どうした!? れ、霊か? 幽霊かっ!!」
興奮気味に持明院先輩は、懐中電灯を人影へと向ける。
「きゃっ……」
しかし、突然の光に驚いて立ち上がった人物は、残念ながら幽霊などではなく、つい先程、私と山寺先輩が出会ったばかりの人物。
村井さんだった。
「村井さん? どうしてここに?」
「えっ、えっと……私……」
村井さんは、あたふたしながら私たちと床、交互に視線を向けた。
しきりに何かを気にしているみたいだ。
「村井さん?」
「……私、見たの……」
じっと私達を見つめたまま、村井さんは震え出した。
「見たのよ! 本当にいるの! 鏡の少女は!!」
すると……