「なぁ……明るいうちに行ってもつまらないぞ? こういうのは夜、それも夜中と相場が決まっているんだ!」

 持明院先輩は、ひたすらブツブツと文句を言っている。

 私達はまだ西日が射す運動部部室棟の一階廊下、一番奥を目指していた。

「ここみたいだね」

 山寺先輩が取っ手のついた、小さな床板の扉を見つけた。

 扉には鍵もかかっておらず、引っ張ると簡単に開く。

「俺が先に入るから……みんなはその後から来て」

「ちょっと待ったぁ!」

持明院先輩の声が、廊下に響き渡った。

「なっ、なんですか!? またイキナリ大声出して!」

「どうせなら怪談を模して行こうじゃないか」

 持明院先輩はフンっと鼻を慣らして、とても良い案を出したとばかりにしたり顔だ。

「怪談を、ですか?」

「あ~、カップルで行くって事?」

 富岡先輩はどうやらすぐに、察しがついたらしい。

「まっ、待って下さい! カップルって……どうやって」

「じゃあじゃあ、桃ちゃん俺と付き合っちゃう?」

 なんの躊躇もなく、富岡先輩は私の手を両手で握った。

「へっ!? なっ、何言ってるんですか?」

「えっ? ダメ? 俺は結構桃ちゃんタイプだよ」

「んなもんっダメに決まってるだろうがっ!!」

 私と富岡先輩の間を割って、持明院先輩が叫んだ。

「心霊研究部は恋愛禁止だっ!!」

 なんですか、そのどこぞのアイドルみたいな規則は……。

「じゃあ、どうするの? 別に本当に付き合わなくても、とりあえずここは無難にカップルを作るのが得策だと思うけど~?」

「確かに、そうだが、マサキがならなくても良いだろ? ここは普通、順当に考えればこの心霊研究部部長、持明院輪が……」

「藤城さん……」

 持明院先輩のセリフを遮って、山寺先輩が私の目の前に立った。

「はっ、はい……?」

「俺と……付き合って……」

「へっ……?」

「あっ、彰!?」

「へ~っ、珍しいね~彰がそんな積極的なの」

「俺じゃ、ダメ……かな……?」

 眼鏡越しに見える山寺先輩の潤んだ瞳は、男性の免疫などほとんどない私には核攻撃を受けたにすら等しい。

 でも、勘違いしてはいけない!

 これは、心霊現象の検証として! あくまで仮、そうお芝居みたいなものなんだから!

「わっ、わかりました、カップルのフリをすればいいんですよね」

「うん……」

「まっ、まあいいだろう! フリだからなあくまで、心霊研究部は恋愛禁止なんだからな!」

 持明院先輩はなんだか納得がいっていないみたいだけど、これ以上先輩に構っていたら本当に日が暮れてしまう。

「じゃあ……行こうか」

 山寺先輩を先頭に、私たちは地下の通路へと入って行った。

「藤城さん……手……離さないでね」

 山寺先輩に手をひかれ、私はその後をゆっくりと歩く。

 私の後ろには富岡先輩、その後ろには持明院先輩。

「桃ちゃん、桃ちゃん……」

 富岡先輩は、私にこそっと耳打ちをした。

「桃ちゃんはオレが守るから安心してね?」

「えっ……あっ、は、はい」

 そう言って人懐こい笑顔を向けて来る。

 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか富岡先輩はある意味謎である。