部室へ戻ると、相当おかんむりの様子な持明院先輩が眉間に皺を寄せて待っていた。

「おいっ! 一体、オレをどれだけ待たせるんだっ!! 今度また、こんな退屈な時間を味あわせたら、オマエ等尻叩きの刑だからな!」

 持明院先輩は尻を叩く素振りを、シュっシュっと勢い良くやって見せる。

 本当に、見た目が良い分残念な先輩だ。

「まあまあ輪ちゃん、二人とも今日はゴメンね~急に男バスに助っ人頼まれちゃってさ」

 富岡先輩は苦笑しながら私たちに手を合わせながら謝って来た。

 投げ出されているパイプ椅子を起こして私が座ると、山寺先輩はいつものボロいソファに座り込む。

 持明院先輩は相変わらず私達の目の前で、仁王の様に立ったまま腕組みをしていた。

「祖父に聴いてみてやったが、特に例の鏡に纏わる逸話などは何一つとしてなかった! それ所か普通中の普通だ! 鏡も卒業生からのただの寄贈品で数が多かったからあの非常階段にも設置しただけだそうだ、しかも!」

「しかも?」

「本当なら生徒の出入りのある表階段の廊下に設置予定だったものが、工事の手違いであんな辺鄙な場所になったという、何一つオカルト要素の無いつまらんものだ! もういっそあんな鏡、まぎらわしいから破壊すればいいんだ! 今から壊しに行くぞっ!」

 持明院先輩は物騒な事をさらりと言う。

「ハイハーイっ! じゃあさじゃあさ、アノ階段も普通の階段なの~?」

 富岡先輩は興味深げに身を乗り出した。

「階段はもっとつまらないぞ! 本当にただの木製の非常階段だ、老朽化したから閉鎖しているだけだ、あーっ!! もう階段ごと火を付けて燃やしてやろうか」

一瞬、持明院先輩が明智光秀に見えた。
ココは本能寺ではない。

「放火はだめだよ~? 輪ちゃん」

 物騒な持明院先輩とは真逆に、山寺先輩はしばらく無言で何かを考えていたが、ふいに口を開く。

「一度……みんなで見てみない? その鏡を……」

「えっ!?」

「よしっ!! いいぞ彰、オマエも火を放ちたくなったんだな!?」

「持明院先輩! もういい加減にして下さい」

「まっ、百聞は一見にしかずだもんね~、いいんじゃない? 彰がそう言うなら行ってみても」

 山寺先輩に続き、富岡先輩までもが今回は鏡を見に行く事に賛成した。

 こうなっては、私も行くしかないかもしれない。
めっちゃ嫌だけど……。

「それで、いつ行くんだ? 今夜か?」


「今から……」