そして時は流れ──

 私は、中学校を卒業しこの春からはれて高校生だ。


 私立 鳳(オオトリ)学園。

 そこは、大正時代からある由緒正しき学びやである。

 中高大のエスカレーター式のマンモス共学校。

 しかし、校舎には古くからの歴史を刻む面影もありながら学園施設は最新でカナリ充実しており、敷地内には一般の人が入れるカフェや図書館まで併設している。

 ここが、私がこれから通う学校だ。

 自宅から、片道徒歩で25分それから電車で1時間半と、ぶっちゃけ2時間近くかかる事は抜きにして、私はこの学園に入学出来て、本当に本当に! 良かったと思っている。

 第一にまず、ココの学食は県内で随一だ! 

ランチはビュッフェスタイルで、なんとケーキバイキングまでついている。

 第二に、近くの高校はお世辞にも可愛いとは言えない地味なセーラー服だけど、ここの制服は他校の子達も憧れてるくらい、めっちゃくちゃ可愛い制服だ。

 男子はシンプルなブレザーだが、女子は赤いプリーツスカートのワンピースタイプで、恐らく都会の学校にだってこんなデザインの制服は、なかなか無いと思う。
(余談だけど、この制服はなんでも理事長のお孫さんがデザインしたものらしい)


 そして、そして、第三の理由! 私が2時間もかけてこの学園に来た理由。


 それをこれからお話ししたいのだが、実はこの3つ目は今はもう、あまり意味がない事になっていたりする……。


 私がこの学園に入学して、2ヶ月近くが過ぎた頃。


 時間とは本当に早いものだ。

 でも私は、まだまだ新しい学校生活に毎日ウキウキとしていた。

「桃香ちゃん! お昼一緒に食べよう?」

 仲良しのお友達だって出来た。

 彼女の名前は、豊国(とよくに)ねねちゃん。

 いつも屈託のない微笑みで、私の心を癒してくれるオアシス的な存在だ。

「うん。あっ! 私、今日お弁当なんだ~」

「ねねも今日お弁当~、おそろい~」

 そう言って、ねねちゃんがピンクの可愛いお弁当箱を開けて見せてくれた。

 中には彩り豊かなおかずが、綺麗に盛り付けられている。

「ねねちゃんのお弁当は、いつも美味しそうだもんね~」

「じゃあ、交換こしようよ? ねねの卵焼きと、桃香ちゃんのポテトサラダ、一口ずつ交換~」

「うっ、うん!」

 こういうの、こういうのだよ! 私が憧れていたのは。

 なんせ中学校迄の私は、クラスメイト達から【心霊バスター モモカ】と恐れられ悪霊からみんなを守る教祖として崇拝されていた為、人気の給食メニューは全て供物として捧げられて来たんだから……。

 そう、私は……、あの肝試しの一件から、霊を呼び寄せられるだの、霊にとり憑かれているだの、あげくの果てに、あの時、霊と闘ってクラスのみんなを助けただの、あらぬ噂が勝手に一人歩きをはじめ、最終的には驚異の霊能力を持ち、従うモノには幸運を、はむかうモノには天罰を下すとかいう神的存在にまで祭り上げられてしまったのだ……。

「桃香ちゃん……?」

 ねねちゃんは、感動と今までの辛かった日々の追想で、アッチの方に行ってしまっている私を心配そうに見つめていた。

「あぁっ! うんうんっ!! ゴメンゴメン。テラスで食べない?」

 私達はお弁当を持ち、テラスでお昼にする事にした。

 テラスは、広い校庭の向こうに山と海を一望出来る学園の人気絶景スポットだ。

「ねぇ、桃香ちゃんは部活もう決めた?」

「部活か……う~んっ……」

 ハッキリ言うと私は、あまり部活には興味が無い。

 なんせ通学に往復4時間弱かかるのだ。

 それこそ部活なんてやっていたら、大好きな睡眠時間が削られてしまう。

「ねねは、テニス部か吹奏楽部で迷っているんだ~、桃香ちゃんも良かったら一緒に見学に行かない?」

「うっ、うん~……、見学くらいなら~」

 私は小・中学校時代の教祖経験から、笑ってごまかすという特技を習得している。

なんとなく笑ってごまかせば、周囲は勝手にそれを良い方へと解釈してくれるものだ。

 得意の愛想笑いで、この時もねねちゃんからのジャブを回避する事に成功した。

 ならべく帰宅部として生きて行こう! 私はそう強く心では決めているのだ。


 だがそんな私の野望はこの日、見事に打ち砕かれてしまう。