昔からよくある、幽霊の声の入った歌や曲、いわゆる心霊ボイスと呼ばれるもの。

 そういったものが森下さんの動画には入っていた──という事らしい。

「そうっ、残念ながら映像では撮れなかったんだよね、なんせ突然の事だったし。でも、あの鏡には噂通り少女の霊がいたよ、オレたちは確かに見た」

 つまり、森下さんたちが本当に幽霊を見た確固たる証拠は今のところない様だ。

 やはり音声よりは映像の方が証拠としては信憑性も高いと思う。

「でも実際、オレも幽霊見たし、副部長でオレの彼女の堂本は幽霊に押され階段から落ちてケガまでしたんだ。アレは多分、あの鏡の少女の霊で間違いないよ、それに、もう一人目撃者がいる」

 そう言って振り向いた森下さんの後ろには、大人しそうな眼鏡の女子生徒がいた。

彼女はおどおどとして、森下さんの視線に気づくと私たちの方へと近づいて来て軽く会釈をした。

「あっ……あの、はじめまして、私、村井っていいます。私も見ました……血塗れの……鏡の少女を」

 村井さんは例の話のもう一人の部員だろう。

 という事は、彼女が鏡詣りの噂を聞いてきた張本人という事だ。

「じゃあ……君が、『鏡詣り』の話をしたって人?」

 山寺先輩は眼鏡を中指で上げると、村井さんをじっと見つめた。

「はっ、はい……そうです」

 なんだろう、まるで何かを見透かしている様な、山寺先輩はまるで全てを理解したというそんな感じで一人納得した様子だった。

「なるほどね……あっ、動画のデータをもらえたりは出来る?」

「えっ? えっと……」

 戸惑う村井さんは、森下さんの方と山寺先輩を交互に見比べる。

「もちろん! 学校新聞のスクープに役立ててよ」

 森下さんは、机の上のパソコン横に積んであるROMの中から一枚を取り出し山寺先輩にそれを差し出した。

 すると村井さんは突然ワッと顔を押さえ、肩を上下させながら嗚咽を上げ出した。

「わ、私のせいなんです! 私が、『鏡詣り』をしようなんて言ったから、だから! 愛はあんな目に……!」

「おっ、おい村井、アイツがケガしたのはオマエのせいじゃないって! 村井が悪いワケじゃない、オレと堂本だって賛成したろ?」

「そうですけど……でも……」

 山寺先輩は村井さんの側に寄ると、さりげなくポケットティッシュを差し出した。

「ごめん……思い出したくない事を聞いて」

「いっ、いえ……いいんです」

「あっ! 悪いねそろそろ生放送の時間だ、後は動画を観て良い感じに新聞作ってよ!」

「じゃあ……最後に一枚写真いい?」

「えっ? あっ、ああ」

 首から下げていたカメラを構えて、山寺先輩は二人の写真を一枚撮ると、私たちは視聴覚室を後にした。