「……あっ……俺、怒ってないから……」
「えっ? 怒る?」
「うん、俺……話すの苦手だから……よく勘違いされるけど……機嫌悪いとかじゃないから……」
「えっ? いえ、そんな風には思ってなかったですよ?」
「富岡みたく、話を上手く盛り上げられないし……」
「いっ、いえいえ! 大丈夫です! そんなの気にしないで下さい!」
「……気を使わせてたら……ゴメンね」
「そ、そんな謝らないで下さいよ!? 気にしないで大丈夫です! あの、じゃあ、その分いっぱい私が喋りますよ!」
デートでもないのに、そんな事に気を使わなくてもいいのにとは思うのだが、恐らく山寺先輩自身が気にしている事なのだろう。
そして何故か先輩はじっと私の顔を見つめた。
「えっ、えっと? 何か? 私の顔ついてます?」
「……いや……目……そらさないから……」
「そらす?」
「うん……大抵の女の子は俺が目を見ると……怖がってそらす……」
それは、怖がっているのではなく照れているだけなのでは?
私は単にそういう事に疎いから、見つめ返してしまっただけなのだけど。
「先輩は怖くなんてないです! 絶対に! 私が保証します!」
私は全力で否定した。
「……藤城さんて……不思議な人だね」
「不思議……ですか?」
私からすればよっぽど山寺先輩のが不思議なのだけど……。
「うん……不思議な魅力がある人だね……」
そう言って少しだけ、山寺先輩は微笑んだ気がした。
もしかして、彼が笑ったらその笑顔は、どんな女性も一瞬で落とすほど破壊的に可愛いかもしれない。
「ああ、そうだ……そういえばね……ちょっと気になる話しを聞いたんだ……」
「気になる?」
「うん……放送部の副部長の堂本 愛(どうもと あい)さんは、今ケガで入院してるって……」
「えっ? い、いつからですか?」
「ちょうど『鏡詣り』の噂が広まりはじめた頃ぐらいから……」
「じゃあ、階段から落ちたのは本当なんですかね」
「みたいだね……原因まではまだ聞いてないけど……」
「あの……つかぬ事をお伺いしますが山寺先輩はその、信じてますか? 幽霊とかって」
先輩は一つあくびをすると、ぽそりと言った。
「……いるんじゃないかな……」
ちょっと以外だった。
昨日、富岡先輩が二人とも興味が無いと言っていたから、てっきり信じていないのかと思っていた。
信じるのと興味が無いのは違うのかもしれないけど。
てっきり幽霊やら心霊現象を信じているのは、持明院先輩だけなのかと思っていた。
「でも……」
「でも?」
「今回のは違う気がする……原因はもっと何か別の……」
「別?」
「カンだけど……幽霊は関係ない気がする」
山寺先輩はそれ以上の説明をしてくれなかったが、なんだか先輩の言うカンというモノには妙な説得力がある。
そんな気がしてならなかった。