次の日。
4限目の終わり、富岡先輩から昨日教えた私のSNSアプリにメッセージが届いた。
『放課後部室前に集合!』……と。
おそらく、例の体験者探しをするのだろう。
探すとはいっても放送部という明確なヒントがあるから、見つけるのは簡単だ。
あとは、本人達に会って直接話を聞けばいい。
そして放課後、部室前に行くと待っていたのは富岡先輩ではなく、膝を抱えて眠る山寺先輩だけだった。
「あの~、先輩、山寺先輩?」
「…………」
「先輩!」
ゆさゆさと揺り起こすと、ようやく目を覚ました山寺先輩はきょろきょろと周りを確認してから私をじっと見つめた。
「藤城さん……」
「なんで廊下で寝てるんですか?」
「眠いから……」
「そうですか、あっ、あの、富岡先輩は?」
「富岡……ああ、連れてかれた……」
「はっ? 連れてかれた?」
「うん……バスケ部に……」
「バスケ部?」
「そう……男バスの練習試合……急遽メンバー足らないとかで……」
「はぁ……そうですか」
恐らく私の推測だと、富岡先輩はあの雰囲気通り運動神経がバツグンに良く、運動部で助っ人を担わされる英雄的な人物だったりするのだろう。
富岡先輩なら軽いノリで二つ返事で引き受けてくれそうだし、私の頭の中で満面の笑顔でOKする先輩がすぐに脳内再生された。
「じゃあ……行こうか……」
山寺先輩は立ち上がると、制服の胸ポケットから眼鏡を取り出してかけた。
「行くって、放送部に直接聞きに行くんですか?」
「昨日の話の体験者には、もうアポ取ったから……」
「えっ? そうなんですか?」
「うん……。高等部二年A組の森下君と部員の村井さん……今日、新聞部であの話について取材させてくれるよう頼んでおいた……」
「そうですか、ありがとうございます」
私は山寺先輩のその手際の良さに驚いた。
いつも気怠そうにしているのに、結構しっかり者なのかもしれない。
しばらく黙って二人廊下を歩いた。
「…………」
「………………」
何か話した方がいいだろうか?
でも、何を話せばいいんだろう。
山寺先輩は、やはりどこか読めないというか不思議というか……。
ふと見た先輩の横顔は、改めて見てもやはり綺麗な顔立ちをしている。
筋の通った鼻はシルバーフレームの眼鏡を更に引き立てて、長めの黒髪と透明感のある肌が中性的な雰囲気でカナリの美形。
「なに……?」
あまりにまじまじと凝視する私に気づいて、山寺先輩は首を傾げて私を見た。
「えっ!? あっ、なんでもないです!」
山寺先輩は慌てふためく私に何かを察した様子で、小さく溜息を吐いた。