「別に、なにもないみたいだけど……」
通路が終わり小さな梯子を昇ると、例の階段が目の前にあった。
各階の防火扉は固く閉ざされ、窓は無い。
ただ、階段だけが上に続いている。
「この上に、その鏡があるの……?」
「多分……。さっ、行きましょう」
「A先輩……先、行って下さいよ」
「たく、しょうがね~な~! …………な、なぁ、知ってるか? 幽霊って、一番後にいるヤツを連れてくらしいぞ?」
「ひっ! やめて下さい! わ、私、やっぱり先に行きます!」
渋々B子が先頭を歩き、AとC子がその後に続いて階段を昇った。
懐中電灯の灯りだけを頼りに、二人は闇へとどこまでも続く様な階段を昇っていく。
「…………!?」
ふいに、B子は立ち止まった。
突然歩みを止めたB子に、思わずAはぶつかってしまう。
「おっ、おいっ! 急に止まるなよ? 危ないじゃないか?」
しかし、B子はその訴えに答える事もなく、ただその場に立ち止まっている。
「もうっ、どうしたっていうのよB子!?」
C子もB子の異変に気付き、持っていた懐中電灯で彼女の顔を照らしていた。
「ねぇ……今、何か……聞こえなかった……?」
震える声でB子は言った。
「なっ、なんだよ? さっきのは冗談だって! 幽霊なんていねーよ」
そう言い掛けてAも立ちすくみ、静まり返る闇の中じっと耳を澄ませる。
「……何も聞こえないわよ! もう、B子ったら怖がりすぎよ、ほらさっさと行く行く!」
恐怖を打ち払おうと、C子はB子を後から急きたてた。
「う……ん……っ」
「だよな!? やっぱ気のせいだよ、オマエ怖がりだからな~」
「う、うん……ゴメンなさい」
「さっ、先を急ぎましょう」
B子は再び階段を昇り始めた。その後を追って二人も進む。
やがて、長く続いていた階段も終わり、今までと確実に違う広さの場所に着いた。
懐中電灯で辺りの壁を照らすとーー
「ひっ!! だ、だれ?」
目の前に、自分達と同じ制服姿の三人がいた。B子は驚き、後ずさる。
「これ! 私達よ、ほら?」
C子が右手左手とを交互に上げ下げすると、目の前の人間も同じ動きをした。
「鏡……じゃあ……これが?」
「例の『鏡詣り』の……。ほっ、ほら早くやって終わらせましょう」
「そうだな」
「うん……」
「じゃあ、私はこの位置から撮影するから、二人はさっき教えた鏡の前で誓いの儀式をして」
C子はスマホを持ち、鏡に写らない位置から撮影を始める。
「じゃあいくよ?」
「あっ、ああ……」
事前にC子に言われていた通り、鏡の前で手を繋ぎ目を閉じると、一呼吸おいてから誓いの言葉を共に唱えた。
「「私はカノ者を永遠に愛する」」
それから、しばらくの沈黙が流れた。
恐る恐る目を開けると、鏡には普段とナニも変わらない二人が映っているだけだ。
「やっ、やっぱナニも起こらねーよな……」
「お、起こらないって事は私達は永遠の愛で結ばれるって事ですよ……」
「そ、そうかそうか!! だよな~っ」
「ねっ、C子」
ふと、C子の方を見ると、彼女の様子がなにやらおかしい。
「C子……?」



