僕は就職した。上京して以来、毎年夏休みと正月休みには帰省して両親に顔を見せることにしている。今年の年末年始は12月29日から1月4日まで帰省した。
金沢へ帰省するとなぜかほっとする。まず、空気が良いし、水もうまい。空が広い。町全体がのんびりしている。
年末年始は天気も良く、家でテレビを見てごろごろしたり、街中を散歩したりしてのんびり過ごした。東京の街は刺激があって良いけれど、やはり故郷の町は落ち着いている。両親の顔を見るとなぜか安心してほっとした気分になれる。
故郷に帰ったせいなのか、しばらく見なかったあの夢を昨晩は見た。誰かを呼んでいる夢だ。呼ぶと振り向いて立ち止まっている。近づこうとすると足が動かない。それで目が覚めた。今日は1月4日(日)東京へ帰らなければならない。明日から仕事だ。
いつも帰りは早めの時間の列車「特急はくたか」を予約する。しかも窓際の日本海が見えるA席。いつも往復は日本海を見たいので海側のA席にしている。
もうすぐ新幹線が開通する。越後湯沢での乗り換えがなくなり、時間も今の4時間から2時間半くらいになるらしい。ただ、新幹線は結構トンネルが多くて、景色はどれに乗ってもあまり良いとは言えない。景色はどうなるだろう。
隣の席に若い女性が座った。僕と同じに年末年始に帰省していたらしい。反対側の窓の外から女性の両親が手を振って見送っている。どこか見覚えのある顔だったがすぐには思い出せなかった。
列車が動き出した。手を振っていた女性がこちらの窓の外を見たので、目が合った。
「合田先生ですね!」
「紗耶香ちゃん?」
「こんなところでお会いできるなんて」
「どうしたの? 帰省していたの?」
「今、東京の大学に通っています。2年生です」
「そうか、大学に進学したんだ。大人になったね」
「両親には金沢の短大にしなさいと言われたけど、親元を離れてみたかったので、どうしてもと頼んで」
「ご両親は一人娘の紗耶香ちゃんが一人暮らしをするのは心配だと思うよ」
「だから、母がいつも来ています。二子玉川に2LDKのマンションを買って住まわせてくれています」
「すごいね、あそこは良いマンションが建っている。偶然だけど僕は近くの高津というところに住んでいる」
「ええ、そんな近くに住んでいるなんて思いませんでした。でも住まいを探しに上京したときに、あそこを見に行った時にどうしてもここにしたいと思いました。いつか夢に見たなつかしい景色に似ていたんです」
それから、紗耶香ちゃんの大学の話や学部の話を聞いた。三軒茶屋の女子大に通っていて、国際学部とのことだった。将来は旅行関係の仕事につきたいと言っていた。
「どうして帰省した時に私の家に訪ねて来てくれなかったのですか?」
「もう家庭教師を辞めているし、大人のサラリーマンがわざわざ女子高校生に会いに行くのもどうかと思って」
「私は先生のことをいつも思っていました。私の命の恩人ですから両親も気にしないと思います」
「紗耶香ちゃんのことは時々思い出していた。可愛かったなあって。こんな風に会うとは思いもよらなかった。本当に素敵な女子大生になったね」
越後湯沢で新幹線に乗り換えることになるので、新幹線の座席を聞くと、また隣同士の席だった。偶然の一致にただ驚くばかりだった。紗耶香ちゃんも乗り換えて席に着くなり、しばらく黙ってしまった。
「こんな偶然ってあるのでしょうか?」
「少し気味が悪くなるくらいの偶然の一致だね」
「私はとても落ち着いた穏やかな気持ちです。先生とまたこうして一緒にいられて。家庭教師をしてもらっている時はとても落ち着いた穏やかな気持ちでいられましたから」
「これも何かのご縁だね。近くにいるから、困ったことがあったら力になるから、何でも相談してくれればいい」
「ありがとうございます。心強いです」
「これが僕の名刺だ。住所と携帯の番号を裏に書いておこう」
「もう1枚名刺をください。私の住所と携帯の番号を書いておきます。先生も困ったことがあったら言ってください。できるだけお力になりますから」
「ありがとう」
住所と電話番号の交換をしたら安心したのか、紗耶香ちゃんは僕の肩に頭をつけて眠ってしまった。紗耶香ちゃんは東京駅まで眠っていた。
「東京へ着いたよ」
「私、すっかり眠ってしまって、もっとお話がしたかったのに」
「夢を見ていました。私は小さい時からよく同じ夢を見るんです」
「どんな夢?」
「夢の中で誰かを探しているんです。遠くに人影が見えるんですけど近づけなくて」
「ええ! 僕も小さい時からいつも同じような夢をみている。いつも誰かを探しているんだ、遠くに誰かいるんだけど、呼んでも答えてくれなくて、近づいても離れていく、そんな夢だ」
「不思議ですね。先生も同じような夢をみているなんて。これも何かのご縁かもしれませんね」
「そのうちに休日にでも、また一度会おうか? 場所は二子玉川がいいね」
「そうですね、是非会いたいです」
二子玉川までは帰る経路が同じなので一緒に乗り換えた。JRで大井町へ行って、そこから大井町線で二子玉川へ向かった。
二子玉川では紗耶香ちゃんが自分のマンションを指さして教えてくれた。タワーマンションの12階とのことだった。
二子玉川駅で紗耶香ちゃんは元気に降りて行った。後姿はもう素敵な大人の女性だ。
それを見送ると二駅先の高津で降りて自宅へ帰った。これから、明日からの仕事に備えて、部屋の掃除と食料の買い出しをする。
金沢へ帰省するとなぜかほっとする。まず、空気が良いし、水もうまい。空が広い。町全体がのんびりしている。
年末年始は天気も良く、家でテレビを見てごろごろしたり、街中を散歩したりしてのんびり過ごした。東京の街は刺激があって良いけれど、やはり故郷の町は落ち着いている。両親の顔を見るとなぜか安心してほっとした気分になれる。
故郷に帰ったせいなのか、しばらく見なかったあの夢を昨晩は見た。誰かを呼んでいる夢だ。呼ぶと振り向いて立ち止まっている。近づこうとすると足が動かない。それで目が覚めた。今日は1月4日(日)東京へ帰らなければならない。明日から仕事だ。
いつも帰りは早めの時間の列車「特急はくたか」を予約する。しかも窓際の日本海が見えるA席。いつも往復は日本海を見たいので海側のA席にしている。
もうすぐ新幹線が開通する。越後湯沢での乗り換えがなくなり、時間も今の4時間から2時間半くらいになるらしい。ただ、新幹線は結構トンネルが多くて、景色はどれに乗ってもあまり良いとは言えない。景色はどうなるだろう。
隣の席に若い女性が座った。僕と同じに年末年始に帰省していたらしい。反対側の窓の外から女性の両親が手を振って見送っている。どこか見覚えのある顔だったがすぐには思い出せなかった。
列車が動き出した。手を振っていた女性がこちらの窓の外を見たので、目が合った。
「合田先生ですね!」
「紗耶香ちゃん?」
「こんなところでお会いできるなんて」
「どうしたの? 帰省していたの?」
「今、東京の大学に通っています。2年生です」
「そうか、大学に進学したんだ。大人になったね」
「両親には金沢の短大にしなさいと言われたけど、親元を離れてみたかったので、どうしてもと頼んで」
「ご両親は一人娘の紗耶香ちゃんが一人暮らしをするのは心配だと思うよ」
「だから、母がいつも来ています。二子玉川に2LDKのマンションを買って住まわせてくれています」
「すごいね、あそこは良いマンションが建っている。偶然だけど僕は近くの高津というところに住んでいる」
「ええ、そんな近くに住んでいるなんて思いませんでした。でも住まいを探しに上京したときに、あそこを見に行った時にどうしてもここにしたいと思いました。いつか夢に見たなつかしい景色に似ていたんです」
それから、紗耶香ちゃんの大学の話や学部の話を聞いた。三軒茶屋の女子大に通っていて、国際学部とのことだった。将来は旅行関係の仕事につきたいと言っていた。
「どうして帰省した時に私の家に訪ねて来てくれなかったのですか?」
「もう家庭教師を辞めているし、大人のサラリーマンがわざわざ女子高校生に会いに行くのもどうかと思って」
「私は先生のことをいつも思っていました。私の命の恩人ですから両親も気にしないと思います」
「紗耶香ちゃんのことは時々思い出していた。可愛かったなあって。こんな風に会うとは思いもよらなかった。本当に素敵な女子大生になったね」
越後湯沢で新幹線に乗り換えることになるので、新幹線の座席を聞くと、また隣同士の席だった。偶然の一致にただ驚くばかりだった。紗耶香ちゃんも乗り換えて席に着くなり、しばらく黙ってしまった。
「こんな偶然ってあるのでしょうか?」
「少し気味が悪くなるくらいの偶然の一致だね」
「私はとても落ち着いた穏やかな気持ちです。先生とまたこうして一緒にいられて。家庭教師をしてもらっている時はとても落ち着いた穏やかな気持ちでいられましたから」
「これも何かのご縁だね。近くにいるから、困ったことがあったら力になるから、何でも相談してくれればいい」
「ありがとうございます。心強いです」
「これが僕の名刺だ。住所と携帯の番号を裏に書いておこう」
「もう1枚名刺をください。私の住所と携帯の番号を書いておきます。先生も困ったことがあったら言ってください。できるだけお力になりますから」
「ありがとう」
住所と電話番号の交換をしたら安心したのか、紗耶香ちゃんは僕の肩に頭をつけて眠ってしまった。紗耶香ちゃんは東京駅まで眠っていた。
「東京へ着いたよ」
「私、すっかり眠ってしまって、もっとお話がしたかったのに」
「夢を見ていました。私は小さい時からよく同じ夢を見るんです」
「どんな夢?」
「夢の中で誰かを探しているんです。遠くに人影が見えるんですけど近づけなくて」
「ええ! 僕も小さい時からいつも同じような夢をみている。いつも誰かを探しているんだ、遠くに誰かいるんだけど、呼んでも答えてくれなくて、近づいても離れていく、そんな夢だ」
「不思議ですね。先生も同じような夢をみているなんて。これも何かのご縁かもしれませんね」
「そのうちに休日にでも、また一度会おうか? 場所は二子玉川がいいね」
「そうですね、是非会いたいです」
二子玉川までは帰る経路が同じなので一緒に乗り換えた。JRで大井町へ行って、そこから大井町線で二子玉川へ向かった。
二子玉川では紗耶香ちゃんが自分のマンションを指さして教えてくれた。タワーマンションの12階とのことだった。
二子玉川駅で紗耶香ちゃんは元気に降りて行った。後姿はもう素敵な大人の女性だ。
それを見送ると二駅先の高津で降りて自宅へ帰った。これから、明日からの仕事に備えて、部屋の掃除と食料の買い出しをする。