「だって、しょうがねぇだろ……こいつが挑戦状送ってきたんだから」


ひーくんの指が笹原くんを指差し、笹原くんが「何だよ俺のせいかよ!」と声を上げた。


「ひーくん、ひとのせいにしちゃダメ。先にどっちがけしかけたかなんてどうでもいいの、喧嘩両成敗って言うでしょ」

「は、はい」

「で、原因は何なの? その挑戦状っていうの、見せてみてよ」


 ひーくんは少し迷う顔をした後、ジーンズのお尻のポケットの中でくしゃくしゃになってた一枚のルーズリーフを取り出して、広げながらわたしに差し出した。


 な、何コレ……ボンジュールがボソジュールになってるし、文章も喧嘩の動機も小学生レベルじゃない!! このおもちゃは僕のものだー、いや僕のものだー、なんてやってるお子ちゃまと全然変わらないよ!? わたしは挑戦状をビリビリ引き裂いてやった。


「ああっ心菜何やってんだよ、そんなことしちゃって」

「こんなくだらない挑戦状は、破り捨てます!! そんなことで喧嘩なんて、何やってるの!? 誰かがケガしたり、おまわりさんを呼ばれたら大変なことになるんだよ!? 高校退学とかなったら、みんなのお母さんだって泣いちゃうよ!?」


 ひーくんだけじゃなくて、ここにいるみんなに向かって言った。さっきまで殴り合ってた男の子たちが、そろってしーんと下を向いている。普段は強がってても、みんな基本的には素直ないい男の子たちだ。


「でもさ心菜、実際、問題なんだよ。ここをどっちの学校の奴が使うか」

「そんなの、週ごとに代わりばんこにしたらいいじゃない。一週間ごとに東、西って回していけばいいの。もし破った人がいたら、その時は二度とここを使えないってことでどう?」

「なんか、このおもちゃは交代で使いなさいって言われてる子どもみたいなんだけど」

「ひーくんたちがそんなレベルの喧嘩してるんでしょう!!」


 ひーくんも誰も、言い返さない。うん、これでいいか。一応みんな、納得してるみたいだし。仕上げにひーくんの腕を引っ張り、隣でそっぽを向いている笹原くんの腕も引っ張る。


「ほら、仲直りのしるし! 握手して!!」

「えー嫌だよ、こいつの手ぇ握るなんざ、気持ち悪ィ」

「一瞬でいいから! わたしの目の前で握手して、二度と喧嘩はしないって誓って!!」


 二人ともさんざん文句を言ったけど、結局互いの手をきゅっと握り合い、声を合わせて「もう二度と喧嘩はいたしません。これからはお互い仲良くしましょう」って、(棒読みだったけど)言ってくれた。よしっ、これで一件落着!!


「おい心菜、これで気が済んだか?」

「うんっもう満足! ひーくんも笹原くんも、ほんとにもう喧嘩しちゃダメだからね?」

「わかってるってば」


 その時、少し遠くでウーと高い音がした。あれは消防車? ううん、それともパトカー……?


「やべっ、サツ来たぞ!!」


 誰かが言った。

 不良たちは文字通り蜘蛛(くも)の子を散らすように、一斉に逃げ出す。

 わたしもひーくんに手を取られて、ほとんど引きずられるように走った。