清宮時雨はその朝、
いつもよりとびきり早く起きた。

窓の外はまだ暗くて、
小鳥のさえずりさえも聞こえてこなかった。

けれど、
すっかり目が覚めてしまったので、
二度寝はしなかった。

程よい緊張感があって、
今日は大丈夫だと思った。

それは時雨にとって最後の、
ピアノコンサートの朝だった。


時雨はパジャマのまま、
地下のピアノ室へ向かった。
重いドアを開けて部屋に入ると、
真ん中にはぽつんとグランドピアノがあった。

それはとても寂しそうだった。
けれどいつも時雨が弾いてやると、
それは元気になったような気がした。

「おはよう、いつもありがとう。」

鍵盤にそっと手を置いて、
時雨はピアノにそう言った。

***