「なんで学校には手すりがないの?」

「若者が集う学校だから、手すりなんか怪我や病気したときしか使わないから」

いや、わかってるけどさ。

そんな普通に返事しなくてもいいじゃん。

その時、咲弥の携帯電話が鳴った。

「あ、やべ。音消してなかった」

そう言い、私を支えていた手をパッと離す。

へ――?

突然支えがなくなった私の体はグラリと揺れる。

足の踏ん張りがきかず、目の前にある下りの階段を踏み外した。

落ちる――!!

そう思いギュッと目をつむった……瞬間。

私の体は誰かに抱きとめられ、落ちる寸前のところでフワリと宙へういた。

そして、ほんのりと香るお香――。

「あ……」

目を開けると、目の前には前髪の長い男の子の顔――。

「大丈夫?」

少し高い声。

凛としていて、綺麗な声。

思わずうっとりしてしまう。

「ごめん夢花! 大丈夫!?」

慌てる咲弥の声に、ハッと我に返った。

なにやってるの私!!

お姫様抱っこのままボーッとするなんて恥ずかしすぎるっ!!

「だ、大丈夫!! すみませんでしたっ!!」

大声でそう言い、慌てて幽斗君の体を離れる。

恥ずかしさで顔面真っ赤。

顔を上げることもできない。

「……夢花?」

「わぁぁぁっ! そうだよね、お姫様抱っこなんてありえないよねっ!!」