Hugして治して

私はその光の少し手前まで来て、コツンと足先がなにかにぶつかった。

なにかと下を見れば、そこにはなにもない。

そっと手を前へ突き出せば、見えない壁が行く手をさえぎっているのだ。

「これ……」

そして、光のゆれを眺めているとある事に気づいた。

まるで大きな水槽のようだ。

水族館で見るあの水槽がそっくりそのままここにあるようなのだ。

一つ違うところといえば、その中には魚がいないこと。

泡が現れ、空気がコポコポと水面へ向かうのに、生き物の姿はない。

私は両手を水槽へつけ、その水面を見上げた。

その、瞬間。

にゃぁお。

静寂の中、また猫の鳴き声が聞こえてきたのだ。

私はハッとして振り返る。

トンネルの中にいるように響き渡り、消えていく。

その気味悪さはたとえようもなかった。

私が猫の姿を探してキョロキョロと動いていると、それを楽しむように鳴き声がコダマする。

心なしか、体が押さえつけられているように感じる。

大丈夫なハズだ。

外では幽斗君がお経を読んでくれているんだから。

体が重たく感じるのは、きっと緊張のせい。

そう、自分に言い聞かせる。

にゃぁお。

にゃぁお。

「どこよ……」

手の先がジンジン痺れ、寒気に身震いをする。

そして――。

水槽の法へ振り返った瞬間、私の目に黒猫が飛び込んできた。

黒猫は水槽の中にいて、大きく見開いた目は左しかなく、もう片方はポッカリと暗い穴が開いている。

本来あるべきはずのシッポがどこにも見当たらず、腹の辺りからは紐のような腸がむき出しになっていた。

私は声をあげることもできず、その場へしりもちをつく。

それにあわせて、猫は左目だけを移動し、そして大きく口を開き、鳴いた。