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教室へ戻ると、「おかえり夢花」と、咲弥が手を振ってきた。

私も、ぎこちなくそれに答える。

「あのさ――」

『朝から、私ここにいた?』

その質問を投げかける前に、咲弥が口を開いた。

「あった? 数学の教科書」

「へ……?」

「わざわざ取りに帰ったんでしょ?」

「あ――」

呟き、金城さんが持たせてくれた教科書を取り出し、机へしまう。

「ほんと、忘れっぽいなぁ」

そう言って笑う咲弥に、私は目を丸くして「そう?」と聞き返した。

「うん。最近の夢花、特に多いよ」

自分が忘れっぽいとか、そんな自覚は一切なかった。

今まで教科書や宿題を忘れてきた事は、自慢じゃないけど一度もない。

私は机の中から一冊のノートを取り出した。

今日、1時間目の授業で使ったはずの漢文のノートだ。

私はそれを取りだし、ページをめくる。

え――?

「これ……どういうこと?」

思わず、そう呟く。

自分の知らない内容がこと細かく書かれている。

丸っこく、自分の字によく似ている。

カラーペンで無駄にノートを明るくかいているところも、私のかき方と同じだ。

「どうしたの?」

「これ、咲弥がかいてくれたの?」

そう言ってノートを見せると、咲弥は変なものを見るような目で私を見た。

「なに言ってるの? それは今日の漢文で習ったところじゃない。自分で書いたの、もう忘れた?」

自分で――?

信じられない。

だって、私が目を覚ましたのは間違いなく10時で、その時間にはすでに漢文の授業は終わっていた。

なのに、私がこのノートをとった……?