そう言って無邪気に微笑まれると、『行ってくればいいよ』の一言が私の口から出てこない。

一緒にいてくれるなら、甘えたい。

「夢花、なにかしたい事とか、行きたい所とか、ある?」

幽斗君の前髪が、サラリと揺れる。

私はその前髪を掻き分けて、大きな瞳を見た。

少し意地の悪い、強引な性格なのに、それが全く顔に出ていない。

綺麗で、可愛い顔。

「私……」

「うん? 言ってごらん?」

「幽斗君と一緒にいれるなら、それでいい」

ポーッとする頭でそう言うと、幽斗君は満足そうにニッコリと笑った。

「それは光栄だな」

そう言い、私の腰に手をかける。

そのまま私を抱き寄せて――。

ピンポーン。

チャイムの音で手の力がフッと抜けていった。

「お客さん?」

慌てて幽斗君から体を離すと、本人はムスッとしたように眉を寄せた。

しばらくすると、

「夢花さん、お客様が見えていますよ」

と、上品な着物を着たお手伝いさんが顔を見せた。

「私に?」

キョトンとして聞き返す。

もしかしたら、お母さんかもしれない。

『一時的に』憑けた霊がいなくなって、慌てて様子を見に来たのかも。

そう思い、パッと立ち上がる。

「出ます!」

そう言ってバタバタと玄関へ向かって走る。

そこには――。