焦りと恐怖で背中に汗が伝った、その瞬間。

今まで氷ついていた私の足が、不意に軽くなった。

「い……やぁぁ!!」

すぐそばまで迫ってきた猫の鳴き声に悲鳴をあげ、走り出す。

遠くへ、遠くへ。

猫の声が耳の奥に響いて離れない。

もっと、早く遠くへ!

どんどん家が遠くなっていることにも気づかずに、私は走り続けた――。

そして……。

ふと、我に返ったときには、もう猫の鳴き声は聞こえてこなかった。

肩で大きく呼吸をして、頬に流れる汗をぬぐう。

「……っ」

喉がカラカラで、声も出ない。

どうしよう……。

そっと振り向き、そこに何もない事を確認する。

わけもわからず走っていたから、見た事もない公園に来てしまったのだ。

家からそんなに離れてないハズだけど、自信はない。

辺りはもう真っ暗で、外灯の明かりだけがポツンポツンと頼りなげに揺れている。

「ど……しよ」

携帯を取り出して家に電話をかけようとしたけれど、携帯が見当たらない。

きっと、どこかで落としてしまったんだろう。

今時、公衆電話なんかも少なくなって、いざと言うときに見つからない。

「うそ……」

こんな所で迷子になるなんて、最低だ。

心細くなり、軽く身震いする。

さっきまで走っていたからよかったけど、汗がひいて今度は寒くなる。

本気でやばい。