このクラスで人気といえば、地元でもちょっとした人気者の倉吉雪斗(クラヨシ ユキト)君くらいなもの。

その雪斗には浮いた話が絶えずあって、結局彼氏候補にできるような人は誰もいない。

15歳の青春真っ只中。

なんで男子が少ない高校を選んだのかと、悔やむ生徒も少なくない。

「今日は新しい仲間を紹介するぞ」

先生の言葉に、私は咲弥を見た。

咲弥もこちらを振り向き、『言ったでしょ?』と、自慢げな表情。

「今日からこの1年B組のクラスメイトになった――」

そういう先生の後ろから、学生服を着た男の子が一人そっと入ってきた。

『男の子』というだけで、生徒の視線が一気にあつまる。

「橘幽斗(タチバナ ユウト)君だ」

少し華奢で、ヒョロリとした体格の男の子が、先生の隣でお辞儀をした。

前髪が長く、目が隠れていて暗い印象。

あれが転入生なんだ……。

それにしても、『幽斗』って……。

私は黒板に書かれた名前に眉をよせる。

なんでわざわざ幽霊の幽?

「橘は竜宮寺の息子さんだ。ここの入学式の当日から寺の方で色々とあって、今頃になって入学することになった。まぁ、家の事情ってやつだ」

竜宮寺。

この辺じゃ有名で一番大きなお寺さんだ。

そういえば、ほんの数週間前に竜宮寺で火事があったと新聞に出ていた。

入学式に間に合わなかったのは、きっとそれが原因だ。

「本当はあと数日家の用事があったそうだが、それが早く片付いて今日から来ることになったんだ。橘も、少しでも早い方がなじみやすくていいだろう」